1. 小松市民病院のPX学習会
2.連載「Patient Stories」第41回 持病がCOVID-19からの回復をもたらす
3. 今後の予定
1.小松市民病院のPX学習会
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では昨年、医療現場でのPXの推進役となるPXE(Patient eXperience Expert)の認定制度をスタートさせました。初年度は26人が認定試験に合格し、職場でPXを広めるさまざまな活動を行っています。
小松市民病院(石川県)の病院長の新多寿さんはPXEの1期生であり、院内でPX学習会を立ち上げました。PXE受講の理由、学習会の取り組みについてお聞きしました。
PXE受講の直接的な動機として、新多さんは「医療者としての私のフィロソフィーがPXとマッチしていると思ったからです」と話します。新多さんのフィロソフィーは次のようなものです。
「働き方として、肉体的健康と精神の健康の両方を成り立たせるもの、つまりwell-beingが得られるものとなるべきです。単に労働時間を短くしただけでは、決して満足のいく働き方にはなりません。当院には市職員、委託業者、派遣職員、救急隊員、警備員、医療ディーラーやMRなどさまざまな職種が働いています。私は、当院にかかわっている方はすべて、当院の重要な一員と考えています。それぞれの職種間には、責任や役割の軽重・差異がありますが、お互いの仕事を尊重し合う姿勢を持ち、小さなことでも『ありがとう』と感謝の気持ちを表すことが重要です。さらに、患者・家族だけでなく、病院を訪れるすべての人に対して、全職員がウエルカムの気持ちをもって接する姿勢が、来院した方々の心に満足を呼び起こします。そしてそれを感じとることが、自分たちの内なる喜びとなり、働きがいにつながっていきます」
「この考え、思想、文化を全職員に滋養させるには、PXを入口にすればいい」と思ったことからPX学習会を始めることにした新多さんは、自らポスターを作成し、全部署に配布・掲示してメンバーを募りました。看護部長をはじめ副部長3人、看護師長4人など看護師16人と看護補助者1人、医師は新多さん(当時は副院長)と診療部長の2人、薬剤師1人の計20人。学習会はPXについて新多さんが説明し、PXEのテキストをもとにディスカッションを行いました。
新多さんは「講義を通し、参加者の熱気が感じられ、手ごたえがありました。PXの概念についてはおおよそ理解いただき、これから勉強していきたいという意見が多かったです」と学習会を振り返ります。今後については、「学習会と同時に入院患者用のPXサーベイを、病棟をしぼってやってみたいと思っています。ベンチマークを得るためにも継続してやり続けることが必要。私自身は病院管理者としての業務が多くなり、PXだけに注力することが不可能なので、職員のなかからPXEの資格をとってもらおうと考えています」と意気込みを語ってくださいました。
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PXE2期生を現在募集中です。全5回の養成講座は、2020年9月~2021年2月の開講を予定しています。養成講座ではPXの基本的な知識、PXとPSとの相違点や関係性を理解したり、PX向上施策を検討したり、患者視点のコミュニケーション法などを学ぶことができます。PXEの概要および申し込みは、下記リンクからお願いします。
Link:https://www.pxj.or.jp/pxe/
2.連載「Patient Stories」第41回 持病がCOVID-19からの回復をもたらす
今回の「Patient Stories」は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者のストーリーです。持病が重症化リスクではなく回復をもたらすとは一見考えにくいですが、どういうことでしょうか。以下のストーリーを読めば、納得できると思います。病気は時に、心身両面から人を強くするのです。
☆ COVID-19で最もつらかったのは孤独
3月末に多発性硬化症(MS)の治療のためにクリーブランドクリニック・メレンセンターに行った40歳のRenee Englishさんは翌日の土曜日、頭痛と発熱、激しいのどの痛み、耳の痛みで深夜に目覚めました。また、手や顔のしびれ、うずきといったMSの症状もありました。「それはウイルス性の咽頭炎でステロイドを投与した時のようでした。今まで経験したなかで最悪の喉の痛み、鋭い耳の痛みで、緩和できるものは何もありませんでした」
COVID-19の蔓延防止の取り組みとして現在クリーブランドクリニックで実施しているオンラインによる受診で、ReneeさんはCOVID-19の検査を受けるように指示されました。「検査を受けるのが好きではありません、どんな結果がでるのかが怖かった。MSだけではなく、COVID-19への対処も必要になるかもしれなかったのです」
Reneeさんは日曜日の朝、涙をこらえながらステアリングを強く握り、オハイオ州ボードマンの自宅からクリーブランドクリニックのメインキャンパスまで車で90分走らせ、ドライブスルーのCOVID-19検査を受けました。車の列に並び、彼女の番が来ると女性の看護師が車を道端に誘導し、保護マスクの上から“親切な眼差しで”Reneeさんを見つめました。窓を開けて頭を後ろに倒すと、看護師は綿棒を鼻腔にそっと入れました。「検査は不快ですが、その看護師はとても落ち着いていたことに感謝しています」と振り返ります。
翌日の月曜日、3月23日にReneeさんはメレンセンターの神経科医のもとで働く、医師アシスタント・スペシャリストのShauna Galesさんから電話をもらい、検査結果を受け取りました。COVID-19が陽性だったことを示していました。検査を行った看護師と同様に、ShaunaさんもReneeさんに対し、彼女が必要とする心理面のサポートを行いました。「最悪の事態を恐れていたので、すぐに涙がこぼれました。どうやって子どもに伝えればいいの? 私は死ぬのでしょうか?」。その時のことをReneeさんは思い出します。
Reneeさんが落ち着きを取り戻した時、Shaunaさんの言葉が彼女を支えました。「あなたは若く、健康です。あなたはファイターであり、私たちはあなたのためにここにいます」
Reneeさんの2人の息子、 PrestonさんとGavinさんは彼女がCOVID-19の闘病中にほかの家族とともに家を離れていました。アセトアミノフェン以外の薬を使わずに発熱を抑えることとなったReneeさんは、自宅での約10日間の隔離で疲れ果てていました。「人生でこれ以上疲れた経験はありません」と最初の1週間で8ポンド(約3.6キロ)体重を減らしたReneeさんは言います。「幸いなことに、熱は101.4℉(38.6℃)以上にはならず、その後1週間は99.8℉(37.7℃)のままでした。回復するまでに長い時間がかかりました」
Reneeさんの息子やほかの家族は毎日窓越しから、またはオンラインビデオを通じてReneeさんに話しかけ、彼女の心を支えました。Shaunaさんは毎日電話をかけ、Reneeさんの様子を確認しました。闘病中に最もつらかったのは孤独だとReneeさんは言います。「孤独、沈黙の音は耳をつんざくようでした。人と交流したい、家族を抱きしめたいという切望は、本当にリアルなものでした」
数週間前にShaunaさんが予測していたように、幸い、Reneeさんの不屈の精神は報われました。COVID-19からほぼ完全に回復しましたが、嗅覚や味覚はまだ戻っていません。「私はMSの持病があり、とても怖くなりました。最初に考えたのは、『ああ神様、私は人工呼吸器をつけることになり、生き残れない』でした。そして生き残った私たちはすべての人に対し、『あなたは生き残ることができる』と伝えなければならないと思っています」
Shaunaさんによると、Reneeさんが長年にわたり自身の身体的、精神的な健康に気をつけていたことが、間違いなく、COVID-19からの回復に役立ちました。「Reneeさんが健康的な体重とライフスタイルを維持していたことがプラスの影響をもたらしたと確信しています。MSが彼女をより強い人にしたのです」
3. 今後の予定
PX研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、2020年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます。
内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。新型コロナウイルス感染症が収束した段階で開催を決めたいと思います。日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。
※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます
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オンラインによる勉強会、「第2回PX寺子屋」を開催します。
6月20日(土) 13:00-14:00
※Zoom(Web会議ソフト)での開催となります。参加者にはリンクをお知らせします。
※研究会会員は無料、会員外の方は有料(1000円、事前に参加費の振り込みをお願いします)。申し込みは下記リンクからお願いします。
Link: https://www.pxj.or.jp/events/
※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
自粛生活が続きますが「コロナ疲れ」していませんか?私は、好きな服を着て気分を上げています。「withコロナ」では、自らのエクスペリエンスをいかに高めるかが問われている気がします。(F)※写真は以前、某デパートに飾られていたアート作品です。