日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.94

1.6つのCXベストプラクティス
2.連載「Patient Stories」第32回 男性の1%が罹患するがん
3. 今後の予定

1.6つのCXベストプラクティス


企業が顧客満足度を高め、選ばれ続けることで結果として利益向上につながります。その指標として重視されているのがCX(Customer eXperience;顧客経験価値)であり、PXを考えるうえで参考になるものです。患者が消費者としての考えを、自身の医療体験にも反映させるようになってきていて、医療界は企業の取り組みから学ぶことは多くあります。

 

今回は、CXに関するデータ収集および検証サービスのためのプラットフォームを提供する、米ユタ州にある市場リサーチ会社MaritzCXのレポートを紹介します。PXプログラムを変革する6つのCXのベストプラクティスについて言及したものです。

CXのベストプラクティスとして、次の6つを挙げています。

1:優れたPX戦略の構築

医療機関の90%はPXの改善が最優先事項と述べているが、PX向上の戦略を実行できたのは8%だといいます。患者が誰かを定義し、どんなエクスペリエンスを提供したいのかを明確に示し、治療後の患者の思いを汲むといったPX戦略を作成することができていないという課題を示した数字です。▽患者中心の文化をつくる、▽PX戦略を組織の全体的な目標に結びつける、▽専任のCXエグゼクティブを任命してPX向上に必要なリーダーシップや継続性を提供する――が、PXプログラムを成功に導きます。

2:複数の“レンズ”を通してPXをみる

多くの医療機関では標準化された調査プログラムに依存しています。CXでは顧客のジャーニーのあらゆる段階から情報を収集することでCXの改善をもたらしていますが、PXでも個々にターゲットを絞った情報収集ツールを標準化プログラムと組み合わせて使うことが求められます。

3:予測分析を使用し、PX改善の優先順位をつける

高度な予測分析を行うことで、患者にとって最も重要なものを特定。どんなPXの改善が最大限のプラスの影響をもたらすかを特定します。

4:スタッフによるスマートで迅速な意思決定

企業における競合他社とのサバイバルでは、スマートな意思決定をいかに迅速に行うかにかかっています。

5:NPS®︎の活用

PXプログラムにNPS(Net Promoter Score;顧客ロイヤルティ、継続利用意向を図る指標)を追加することで、医療界を超えた視点を獲得し、より大きなマーケット展望に対するパフォーマンスを測定できます。スコア測定だけでなく、意味あるアクションと改善に焦点を合わせることが重要です。

6:アクションと結果に焦点を当てる

CXに長けたリーダーはデータ収集に重点を置くのではなく、データをもとに改善つなげる方法と、迅速に実行する方法を知っています。

Link: https://www.maritzcx.com/blog/healthcare/6-customer-experience-best-practices-that-will-transform-your-patient-experience-program/

 

 

2.連載「Patient Stories」第32回 男性の1%が罹患するがん


第32回「Patient Stories」は、男性の乳がん患者が主人公です。「男性がなるわけがない」という思いこみが、時として予後を悪くすることも……。身体の異変を感じたら、まずは受診することの大切さを伝える内容です。

 

☆ 家族、信仰、ケアへの迅速なアクセスが患者を支える

49歳のDan DiNardoさんは2015年に進行性乳がんと診断されたとき、彼と彼の若い家族は気を失うような大きなショックを受けました。「男性が乳がんになる可能性すら知りませんでした。家族に乳がんの既往歴はなく、危険因子もありませんでした」

乳がん患者のうち、男性はわずか1%です。クリーブランドクリニックがんセンターの腫瘍内科医、血液内科医のHalle Mooreさんは「男性では非常にまれなため、がんの兆候を無視します。多くの男性は嚢胞であり、すぐに注意を必要とするものではないと考えます」と述べています。

Danさんは最初に乳房のしこりに気づいたとき、地元のがんセンターでマンモグラフィ検査を受け、しこりに変化が見られたら受診するように指示されました。約1年間、しこりの成長が変化と見なすものだと気づかず、その後乳房の出血と皮膚が変化した時、治療を決めました。

生検後、Danさんは乳がんの診断と治療計画をもとに、4カ月間の化学療法、左乳房の切除、放射線治療、ホルモン治療などを家族の支援のもとで受けて、2年以上がんになりませんでした。

しかし2018年、重い家具を動かした後に股関節痛を発症し、乳がんの転移によるものだとわかりました。「左股関節の大腿骨球に転移し、背骨、リンパ節、胸にいくつかの点がありました」とDanさんは回想します。

Danさんはクリーブランドクリニックでセカンドオピニオンを受けることにしました。Halleさんは同院で整形外科腫瘍と外傷を専門とする医師のNathan Meskoさんに連絡し、数時間内にNathanさんがDanさんの検査をしました。

「クリーブランドクリニックの最初のアポイントから2人の医師およびケアチームは私たち家族の不安を和らげ、結果に自信を持たせるよう振る舞ったのは明らかでした」

数日後、Danさんは手術を受けました。手術後、彼の医療チームは標的治療薬とともにホルモン遮断薬を使い、股関節は放射線で治療しました。

「男性の乳がんの内分泌治療は、女性への治療とはちょっと異なります。Danさんはおそらく残りの人生で、進行中の乳がん治療を受けなければなりませんが、ここ1年はがんの成長は見られず、生産的な生活を続けています」とHalleさん。

「私は家族と信仰から力を得ています」とDanさん。妻のSarahさんは楽観的なところを共有し、次のように決心します。「子どもたちには“悲しいかな”と目を覚まして泣くことも、立ち上がって闘うこともできると教えたいです」

「ほかの人への教育は私にとって重要です。検査を受ける必要がある、検査に行くだけだと、理解することの手助けをしたい」とDanさんは言います。

米国がん協会は、2020年に米国で男性約2700人の浸潤性乳がんの症例が新たに診断され、約500人が乳がんで死亡すると推定しています。気を付けるべき兆候としては、しこりや腫れ、皮膚のへこみ、乳頭の退縮、発赤などが含まれます。

 

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/363-man-fighting-breast-cancer-is-grateful-for-family-faith-and-quick-access-to-care

 

3. 今後の予定


福岡市で2月29日(土)に開催される「日本医療マネジメント学会 第19回福岡支部学術大会」で、PXについてのシンポジウムを行います。

日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会からは代表理事の曽我香織さん、世話人の井村洋さん(飯塚病院特任副院長)、西本祐子さん(国立病院機構九州医療センター小児外科医長)、小松良平さん(松下記念病院看護部看護師長)が登壇予定です。奮ってご参加ください!

https://www.19jhm-f.com/

 

当研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、2020年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます。

内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。年10回程度を予定しており、日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。

https://www.pxj.or.jp/events/

※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


今年のアカデミー賞の話題をさらった「パラサイト」は百聞は一見にしかずですが……お金持ちの家の妻役のチョ・ヨジョンの筋肉に目を奪われました。バレエとヨガとピラティスを融合したメソッド「TANZ PLAY」の賜物らしいです。気になります。(F)