日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.89

1.松下記念病院でPXサーベイ実施
2.連載「Patient Stories」第27回 Know your body
3. 今後の予定

1.松下記念病院でPXサーベイ実施


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会が開発した「日本版PXサーベイ(以下、PXサーベイ)」の実施病院が増えています。導入を決めた理由、実施にあたっての院内体制、PXサーベイの結果などを、2019年に初めて実施したパナソニック健康保険組合 松下記念病院にお聞きしました。

 

☆目標は「日本一のホスピタリティ満足度病院」

同院は、大阪府守口市にある323床の急性期病院です。病院理念として、「最高の医療と、患者さまに満足いただける安全な医療を提供し、医の高い倫理性や人間愛を尊重した医療をめざします」を掲げています。

PXサーベイの導入を決めたのは、院長のリーダーシップでした。院長の山根哲郎さんは病院ホームページで、「患者さまに対しては、ただ満足していただくだけではなく、驚くほど高い満足度を持っていただいて、『松下記念病院で治療を受けて良かった』と、人から人へ言い伝えられるような“伝説のサービス”を提供し、患者さまの心を理解し、明るい、温かい、安心の医療を提供することにより、患者さまに日本一のホスピタリティ満足度が得られる病院と言っていただけることを目標としています」と語っています。

 

同院ではPXE(Patient eXperience Expert)養成講座に、看護師と事務職員の2人を派遣しました。また、2年ほど前から経営改善を推進する7つのプロジェクトを立ち上げていましたが、その一つとして、「医療サービス向上PJ」を組織し、どうすれば医療サービスの質向上につながるのかについて、多職種協働で試行錯誤を重ねていました。

医療サービスの質を定量的に可視化する手法として「患者満足度(PS)調査」がありますが、プロジェクト内での話し合いでは、「調査後のPDCAが難しい」という共通の問題意識があったといいます。「以前から患者満足度調査は実施していましたが、その後のPDCAを実践していくことが難しく調査自体が目的化してしまう状況が少なからずありました。PXが『患者・家族の立場に立って医療を提供する』という当院の価値観にマッチしたのも導入理由の1つです」と経営企画課の乗替寿浩さんは説明します。

 

☆強みをフィードバック、モチベーション向上に

「PXサーベイ・入院編」は2019年8~9月にかけて、がん診療を中心とする内科系と外科系の2病棟で実施。2病棟の退院患者(内科系119人、外科系120人)の99.6%から回収し、有効回答率は87.9%でした。以下のような結果となりました。

<外科系>総合PSスコア:平均7.81

強み:看護師の誠実な対応、プライバシーへの配慮、退院への意思の反映、手術・処置や退院後の服薬のわかりやすい説明

課題:不安や悩みを話せる職員、精神的サポート、退院後の健康面や社会面のケアやサポート、食事に関する意思尊重

<内科系>総合PSスコア:平均7.60

強み:医師からのわかりやすい説明、患者の意思反映、健康状態や治療方針への納得、健康状態や治療方針への情報提供、痛みを和らげるケア

課題:お手洗いの清潔さ

 

「PXサーベイでは、病棟ごとに患者から見た『強み』の把握と改善点の優先順位がつけられました。従来のPS調査では課題や、自由記述での少数派の意見に目が行きがちでしたが、PXサーベイでは当該病棟の『強み』を現場にフィードバックすることで、さらによい部分を伸ばしていけます。特に、PSスコアが低いと心配していた内科系病棟では多くの強みを持っていることがわかり、モチベーション向上にもつながるのではないかと考えます」(乗替さん)

同院ではPXを病院運営上の指標の1つに据えて、PXEのスタッフを中心にプロジェクトチームと現場スタッフの協働により、業務改善を進めていきます。「プロジェクトチーム発信ではなく、ワークショップ形式により各病棟から改善策を提案してもらうことを考えています」と乗替さん。2020年度は全病棟を対象に、PXサーベイを実施する予定です。

 

☆パナソニック健康保険組合 松下記念病院

Link: https://phio.panasonic.co.jp/kinen/index.htm

☆PXE養成講座

Link: https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

 

2.連載「Patient Stories」第27回 Know your body


クリーブランドクリニックのさまざまな患者の物語を紹介する連載「Patient Stories」。今回は、たんぱく質であるアミロイドが臓器に沈着することにより機能障害を起こす難病を抱える30代の男性が主人公。アスリートとして人一倍健康だったため、肉体的にも精神的にも治療は困難だったといいます。それを支える医師の連携、患者を信じることが最高の治療につながります。

 

☆家族と信仰が患者を支える

スポーツパフォーマンストレーナーで競技ボディビルダー、生涯アスリートのWayne Howardさんは2016年の夏にクロスフィットトレーニングのウォームアップ中に息ができなくなり、妙だと思いました。「トイレに行き、顔に水をかけて続けようとしましたが座っていなければなりませんでした。翌日に妻のJodiと一緒に走り始めたところ、20歩も進めず、ひざまずきました」

地元の医師にはぜん息と診断されましたが、吸入器を使っても役に立ちませんでした。ピッツバーグのより大きなメディカルセンターでのフォローアップにより、Wayneさんは心臓のALアミロイドーシスの診断につながる心臓生検を受けました。

 

WayneさんとJodiさんは、クリーブランドクリニックの世界的に有名なミラーファミリー心臓血管研究所、がんセンターまで車で4時間であることがわかりました。可能な限り、最高の治療を望んでいた彼らは、同クリニックのがん相談窓口に電話をかけ、アミロイドーシスセンターのディレクターである血液専門医・腫瘍内科医のJason Valentさんの診察を予約することができました。

「アミロイドーシスは多くのほかの病気の症状に共通しているため、しばしば診断されません。アミロイドーシスの患者が、治療の何が間違えていたかを知らずに亡くなることは珍しくありません」とJasonさんは言います。

最初の診断後、Jasonさんはすぐに同クリニックの心血管医学の専門家であるMazen Hannaさんを巻き込みました。「Wayneさんは30代の人がこの病気にかかったときの良い例です。彼の場合、健康の度合いと年齢の若さのため、症状が認識されるのに時間がかかったかもしれません」とMazenさん。「腎臓も病気の影響を受けていました。心臓機能障害の重症度に基づき、すぐに心臓移植の精密検査を開始しました」

同時にWayneさんは臨床試験に登録し、化学療法を含む治療を開始しました。臨床試験で期待した結果が得られませんでした。治療から約3カ月後、血液検査により約70%の患者に効果があった化学療法にも十分反応しませんでした。免疫に悪い細胞を殺す新薬に切り替え、それは体内のアミロイド細胞を制御するのに非常に効果的でした。

 

Wayneさんは治療の最初の数カ月が人生最悪の時期だったと認めています。「誤診によって医師に不信感を抱いていたため、率直に話をし、理解できる言葉や絵によって時間をかけて説明してくれる医師を見つけて大きな安心を得ました。しかし治療は精神的にも肉体的にも非常に困難でした。堂々とした体格だったのが40ポンド体重が減りました」

アミロイドーシスは不治です。過去3年にわたり、Wayneさんは数回の治療を受けており、血液検査と心臓機能のモニタリングのために同クリニックに定期的に通っています。

「すでに与えられたダメージを完全にもとに戻す方法はありませんが、ゆっくりと完全な寛解を達成できれば事態を好転させることができます」とMazenさんは説明します。

Wayneさんは、彼の家族と信仰の進歩を信じています。「私たち家族は、関係をより強くするいくつかの会話をしました。死ぬかもしれないと思うとき、言葉はより有意義で強いものとなります。信仰が私を支えてくれました。すべてが理由があって起こることであり、学び、成長することになっていると気づきました」

2人の医師はWayneさんとJodiさん、娘のMackenzieさん、そして治療の成功に対する彼らの信仰を信じています。それは、Wayneさんのような患者の人生に違いをもたらします。

 

クリーブランドクリニックは2019年、アミロイドーシスクリニックを開設しました。異なる専門分野の医師が同じ部屋で同時に、患者を診ることができます。ケアに対する学術的なアプローチが可能になります。

Mazenさんは最後にアドバイスとして、「自分の身体のことを知ること。息がきれたら、何かがおかしいと感じたら医師に相談してください」と話します。

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/324-amyloidosis-patient-credits-faith-and-family-for-survival

 

 

3. 今後の予定


日本PX研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、2020年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます!

内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。年10回程度を予定しており、日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。

https://www.pxj.or.jp/events/

※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


3月開催の東京マラソンに向けてダイエットを始めました。昼食は魚定食が基本。食べ慣れない和食ですが味噌汁の味がわかるようになってきました。写真左上の小鉢がわからず、友達に写真を送り、「ひじき」だと知りました(汗)(F)