日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.80

1.第2回PXフォーラムを開催!
2. 今後の予定

1.第2回PXフォーラムを開催!


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では11月2日に、「第2回PXフォーラム PXの進化と真価~令和の医療を築く~」を開催しました。

 

昨年に続いて2回目となる本フォーラムは、日本におけるPX(Patient eXperience; 患者経験価値)の認知度向上を目的としたイベントです。当研究会は、イギリスやアメリカなど海外で報告されているPXの効果検証と一人ひとりの患者にとって最適な医療サービスの提供を目指し、2016年に設立。医療における患者中心性の指標であるPXについて、日本の医療機関での導入を進めたいと考え、「日本版PXサーベイ」を開発しています。その導入の取り組みや医療マネジメントにおけるPXの重要性などを、本フォーラムでは取り上げました。主な講演など、フォーラムの内容を紹介します。

 

☆PX概論と海外・日本の取り組み状況

代表理事の曽我香織さんが登壇し、PXの紹介および海外の最新状況、当研究会の活動について紹介しました。

最初のスライドは……なんとラーメンでした(笑)。一杯2500円の高価格の人気ラーメンを例に挙げ、「エクスペリエンスの本質は、受け手にとっての価値」と説明。エクスペリエンス、つまり医療におけるPXを高めることが患者満足度、医療の質、ひいては病院経営向上につながるとしたうえで、欧米諸国を中心としたPXの測定と改善の取り組みを紹介しました。

PX向上に伴い、EX(Employee eXperience; 従業員経験価値)を高める動きとして、イギリスのNHS(国民保健サービス)がwell-being(心身および社会的に健康・幸福な状態)に取り組んでいること、米オハイオ州のクリーブランドクリニックのピア・コーチング(医療者同士によるコーチング)の実施状況などを例に挙げ、「PX、EXを大事にする輪を広げていきたい」と話しました。

 

☆日本版PXサーベイの一分析手法

当研究会が開発した「日本版PXサーベイ」の統計分析を担っているのが、国際医療福祉大学大学院教授の斎藤恵一さんです。フォーラムでは分析手法の詳細を取り上げました。

日本版PXサーベイ・入院編は60の設問となっていますが、そのなかには医療の質を問うストラクチャー、プロセス、アウトカムに関連したものが含まれます。総合満足度を問う設問と、ほかの設問との関係性を分析することで、総合満足度への影響度が高い項目をピックアップし、強み・課題として抽出しています。「PS(Patient Satisfaction; 患者満足度)との関係の強さを示す指標の値により、改善に向けた取り組みの優先順位を考えることができる」と説明しました。

 

☆急性期病院における日本版PXサーベイ実施と改善事例

日本版PXサーベイを実施している3病院から、実施状況と改善事例を報告しました。

研究会がスタートした2016年に、いち早く導入している前橋赤十字病院。人事課人事係長の河野泰雄さんが登壇し、これまで3回実施した結果をシェアしました。2018年10月~2019年2月にかけて実施した3回目のサーベイでは、422の有効回答数を集めました。PSスコア平均(10段階評価)は8.09と過去2回(2016年7.54、2017年7.37)に比べると大幅に上がっています。病院の強み・課題については、「全人的なケアができているがコミュニケーションには改善の余地がある」と分析報告を紹介。2019年度からの病院の行動目標に「インフォームドコンセントの実践」を掲げ、医師を対象としたコミュニケーション研修や医療倫理に関する勉強会を開催していくとしました。

 

日本版PXサーベイ・外来編を唯一実施している国立病院機構九州医療センターの小児外科医長、西本祐子さんは、院内での実施に至るまでの実務と結果の分析と公表、改善行動までの取り組みを紹介しました。同院では2017年に日本版PXサーベイを導入、2015年から実施していた米国で行われているPXサーベイであるHCAHPS(Hospital consumer Assessment of Healthcare Providers Systems; エイチキャップス)も並行して行っています。両者の比較と、2回の外来編を実施した結果、改善点が明確になったことを説明。「日本版PXサーベイの実施結果を院内外に公表し続けてきたこと、メディアで紹介されたことにより現場が興味をもって動き始めた。今後はEX、患者数や診療点数などPSスコアと相関する可能性がある因子についても検討していきたい」と語りました。

 

2019年6月から全入院患者を対象に、継続的に日本版PXサーベイを実施している稲波脊椎・関節病院。IT・広報部副部長の古川幸治さんがiPadを使ってのサーベイ実施状況を説明しました。「院内に医療の質向上推進室が立ち上がり、医療の質の定義やデータ収集・評価について検討していくなかで、評価項目の1つとしてPXを収集することになった」など、サーベイ実施の経緯を話しました。10月23日時点で、659件(入院患者の85%)から回答を得たPSスコアとして、「6以上」が88.3%でした。サーベイ結果でスコアが低かった質問項目については、実施状況などを現場に確認したうえで改善につながった例を紹介。また、電子カルテとiPadを連動させたシステム構成について、実機での操作などによりわかりやすく紹介しました。

日本版PXサーベイを実施した福知山市民病院副院長の中村紳一郎さんも加わり、病院でのサーベイ実施についてパネルディスカッションを行いました!

 

☆患者にとってPXとは何か

PXの推進には、患者視点が欠かせないということで、AYA世代のがん経験者2人が登壇し、PXをどう捉えるかといったセッションを開きました。

ティーペック株式会社の産業カウンセラー、「がん対策推進企業アクション」認定講師である花木裕介さんは、38歳で中咽頭がんとなり8カ月にわたって治療を受けました。闘病中に最もつらかったこととして、放射線治療中の喉の痛みを挙げました。「食べ物が喉を通らなくなり、痛みが治まらないことから心身がつらかった時に、苦しさやつらさに意識を向けてくれる医療者の声掛けに勇気づけられた」と話しました。PXの評価として付け加えたいこととして、「治療中、自分のつらさや苦しみを理解し、気持ちを和らげるような声を掛けてくれたスタッフはどのくらいいましたか?」を挙げました。20代で2回のがんを経験した日本PX研究会のメディア統括マネジャーである藤井弘子さんは、「治療方針の決定には病気の根治だけでなくQOLなどへの配慮がありましたか?」を挙げ、「治療以外の病気に関する悩みや困りごとを聞いてもらえる場、人が必要」などと話しました。

 

☆PXE養成講座に参加して

日本PX研究会が、医療現場や企業などでPXを推進する人材を養成しようと今年からスタートさせた認定資格、PXE(Patient eXperience Expert)について、研究会理事の安藤潔さんが紹介。受講生を代表し、大宮在宅クリニックの松本卓さんと北海道大学大学院歯学研究院の濱田浩美さんが受講の理由と感想、今後について語りました。循環器内科医である松本さんは、「先端技術の追求をモットーとする医師にしてみれば、PXはむしろ敬遠される概念かもしれないが、イノベーションを起こしたいと考えるから、改めて患者ニーズから出発する必要がある」と指摘。勤務する病院やクリニックでPXに関連する聴き取りを行い、その結果からの改善例を紹介しました。濱田さんは、「受講により、自分の環境を客観的にみることができるようになった。患者側からみて何が一番いいのか、最良なのかを考え、その先にある改善という一段上の視点を得た」と話し、今後は承継した歯科医院でPXについて取り組んでいきたいとしました。

フォーラムでは、第1期のPXE認定試験の合格者26人のうち来場者11人に認定証を授与しました。また、人に勧めたい医療機関を投票する「PXアワード2019」を発表。受賞した神戸市立医療センター中央市民病院の表彰も行いました。

今年のフォーラムは、昨年を上回る113人にエントリーいただきました。来年「第3回PXフォーラム」は、2020年12月5日を予定しています、多くの方の参加をお待ちしています。

 

フォーラムに協賛いただいた大日本住友製薬のブースではHX(Healthcare Experience)の紹介、患者ジャーニーマップの作成例(写真)などを展示しました!

 

今年もチャット形式で参加者からオンタイムで質問やコメントを集められるコンテンツ「Slido」を活用。オーディエンスと登壇側がリアルタイムでやりとりを行いました

 

2. 今後の予定


第31回勉強会を12月14日(土)に開催します。今年1年の締めくくり、来年に向けた活動報告を行います。

 

第31回 PX研究会 勉強会

12月14日(土)15:00-17:00

場所:イトーキ SYNQA

https://www.synqa.jp/access/

※通常と開催時間が異なります。間違えのないようにお越しください。

 

「PX概論」

「PX分科会リーダーによる活動報告」

「1年の振り返り」 公立昭和病院 事務局業務課課長 笹野孝

 

会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


東京・六本木で開催中のバスキア展を2時間以上!並んで鑑賞。極めて思想的で、絵の解釈が難解でした。待ち時間に買って読んだ『月の満ち欠け』が思いのほか楽しめました。エビデンスは大事ですが、データや現代科学では説明がつかないことがあるから世の中は面白いと思います。(F)