1.第2回PXフォーラム・クローズアップ③
2.第30回勉強会を開催!
3. 今後の予定
1.第2回PXフォーラム・クローズアップ③
11月2日開催の「第2回PXフォーラム」は、企画趣旨にご賛同いただいた企業からのサポートを受けて運営しております。
今号では、ヘルスケアにかかわるすべての人のより良い経験の実現をめざす、ヘルスケア・エクスペリエンス(Healthcare Experience; HX)に取り組む大日本住友製薬株式会社の医療行政担当首席研究員の御内直人さんと、日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の運営メンバーで、訪問看護ステーション・アクティホームの事業責任者(理学療法士)の講内源太さんの対談を紹介します。地域包括ケア、特に在宅医療の現場においてHXとPXの考え方はどう活かされるのかを、お2人に熱く語ってもらいました。
――製薬企業として自社製品を売るだけでなく、HXを掲げた理由、経緯を教えてください。
御内 国が地域包括ケアシステムを打ち出したなかで、当社として自社のリソースを使って何ができるかを考えていた時に、「対話と観察によって患者の隠れたニーズを把握し、より良い経験につなげていく」というデザイン思考を知りました。地域包括ケアシステムの核の1つは、医療と介護、福祉による多職種連携ですが、デザイン思考を多職種で取り組めば、医療と介護の質向上につながると考えました。医療はエビデンス中心ですが、高齢者が増えていくなかでそれだけでいいのかという疑問も根底にありました。
現在、年間で約110万人が亡くなっていますが、団塊世代が後期高齢者になると約160万人まで増えるという試算があります。これだけ大勢の人を病院で看取ることはできません。病院で亡くなることが果たして幸せなのか、多少病気や障害があっても家で楽しく暮らし、人生を終えることができたほうがいいのではないかと思っています。
在宅での療養は患者、利用者にとって生活の一部であり、医療者は生活の視点をもたないとうまくいきません。医療、介護、福祉に加えてボランティアなどが連携、協力することで1+1が3にも、4にもなっていく。その際、医療職と介護職の目線合わせが必要で、デザイン思考が活用できるのではないかと感じています。お互いを理解することが今後重要になってきます。
講内 病院は退院・転院がゴールですが、在宅はどう生きてどう死ぬかがゴールになります。QOLのLifeには身体、生活、人生という意味がありますが、身体と生活は看護によるケアや理学療法士などがリハビリを行い、機能回復を行うことで整えることができます。そのうえで、患者や利用者は最期の選択をすることができるので、多職種連携は大事です。
在宅医療では患者、利用者と医療者が1対1になることが多く、提供したサービスの振り返りがなかなかできない現状があります。そして利用者が在宅スタッフのかかわりに不安や不満をいったん抱いてしまうと、その先の人生のプランニング(ACP)やケアに目線が行き着かなくなってしまうことが多い。一定のサービスの質を担保するためにも、在宅でPXを重視しなければいけないと考えて実践しています。
御内 確かに、質の担保としてPXは使えると思います。それと先ほど申し上げた目線合わせ。PXサーベイの調査票をみることで、医療側、介護側もこういう観点が重要だとわかるし、医療と介護では言語が違うと言われるなかで、少しずつ歩み寄りができるためのツールになるのではないかと考えています。
高齢者が増えて寿命が延びていくなかで、これからの医療はエビデンスを中心にしつつも、医学モデルから生活モデルに転換していくと言われています。病気が治ったかというより、最期まで自分らしく生きられたかが在宅医療、在宅介護のゴールになります。「安心できる生活」「納得できる人生」の実現には、患者さんの人生観、価値観を理解しなければなりませんが、なかには認知症や言語が不自由な人もいます。そういった患者さんに対してはしぐさなどから引き出す、あるいはコミュニケーション能力を発揮するという時にデザイン思考だとかPXが重要になってくると思います。
――講内さんは勤務する訪問看護ステーションで、PXサーベイを実施しています。
講内 競合する事業所が増え、新規利用者が減少傾向にあったのが実施理由です。対応策として、ケアマネジャーや利用者に満足度(PS)調査を以前行いましたが、5段階評価では高い結果が出た一方、自由回答欄では否定的な意見も寄せられていました。PS調査では、あくまでも結果であり、過程にどこか問題があると思っていた時に、プロセスを評価するPXを知りました。日本版PXサーベイ・外来編の調査票をみたときに、訪問サービスと親和性が高いと思いました。
外来編の医師に関する設問項目を減らし、ジャーニーマップをつくり直して訪問看護、訪問リハビリに該当する項目を残すかたちで、PXサーベイを実施しました。事業所の強み、弱みが見えてきたのですが、弱みの部分では「スタッフの清潔感がない」という傾向がありました。自分たちが訪問したことで利用者を不快に思わせてしまった、ケアをした結果が1日を台無しにしてしまったといった気づきを得ることができました。
また、「介入後に、こうしたほうがいいというリスクを説明したか」という設問のスコアがとても低かったのですが、場合によってはリスクが回避できず、病院に救急搬送されてしまうことが想定されます。生活にかかわるところの説明が足りず、1回やったらおしまいとなってしまっていたのではないか。医療全般の流れからしても申し訳ないサービスを提供してしまっていたのではないかということで見直しました。
御内 在宅医療の質の評価の1つは、いかに救急搬送を減らすかです。多くの人が入院すれば安心だと考えるかもしれませんが、高齢者が10日間入院すると7年分の老化が進むというぐらい筋肉量が減るという調査結果もあると聞いています。急性期病院を退院すると、だいたい要介護度が上って帰ってくることになり、生活の質を下げてしまいます。いかに日常管理で誤嚥性肺炎などの急性増悪を減らすかが大事で、訪問看護ステーションの介入は今後ますます重要になると思っています。ぜひ24時間対応でお願いします。質問ですが、PXサーベイでは、医学的な管理の部分などを聞いているのですか。
講内 医学管理について聞いているほか、介入する時の目的、目標を利用者に伝えているかなども追加するなどしています。重症度の高い利用者が多かったので、回答の対象は本人と、ご家族(代筆)としました。
御内 利用者本人へのサーベイはもちろんですが、在宅では家族に対しても実施する必要があると思います。在宅は家族の支えがないとそもそも成り立たないので、家族の満足度が求められるからです。家族に対しても療養上の説明をきちんとしていれば、救急搬送が減少すると言われています。家族も楽ですし、家族のエクスペリエンスも良くなるわけです。そういった視点のものもぜひ作っていただきたいです。
講内 今後は家族の介護負担とPX、あるいは人生のQOLとPXの相関なども調べていきたいです。PXは1つのツールであって、ほかの指標と組み合わせればより広い世界が見えてくるのではないかと思っています。
御内 心筋梗塞になった高齢者の半年後の生存率は、友人が多い人は死亡率が低いという面白いデータがあるようです。ということは、ひょっとしたら腕のいい医師に手術してもらうより、友人が多いほうが長生きできるという捉え方もできてしまいます(笑)。もう1つのデータとして、家族と一緒に住み、一緒に食事をしている男性の死亡リスクは低く、家族と住んでいるが1人で食事をしている(家庭内孤立)男性の死亡率は、1人暮らしで食事を1人でとっている人よりも高くなっているそうです。ちなみに女性にはいずれも当てはまらないそうです。在宅医療を支える友人、仲間づくりの観点も重要だと思っています。
講内 予防医学研究者の石川善樹さんも、アメリカのビックデータを解析した結果として、友人の数が多いほど寿命が長くなると指摘しています。この話をUR都市機構で清掃業務をしている会社に持ち掛けて、団地で男性限定のサロンを開いて仲間づくりのお手伝いをしました。訪看ステーションの業務ではないのですが、地域でこういった活動をどんどん展開できればいいと思っています。
――HXとPXのコラボレーションにより、今後実現したいことはありますか。
御内 HXはより広い概念で、PXは患者中心としていて少し幅が狭いという理解なのですが、かなりの部分で重なっていると思います。我々は製薬企業なので、医療従事者へのタッチポイントが多い。まずはそこから始めて、介護従事者などにもPXを広げていきたいと思っています。
講内 医療と介護のデザイン思考に関するHXの動画を見させてもらったのですが、患者満足度(PS)を上げると業務負担が増えて従業員満足度(ES)は下がってしまう傾向があるので、そこでデザイン思考を取り入れて、両方上げるパターンづくりをしようという内容でした。PXでも、PXを高めることで離職率が下がると言われていますが、恐らくどこかにデザイン思考が入ってきていると思います(編集注:米オハイオ州クリーブランドのPXサミットではデザイン思考のセミナーが組み込まれています)。そういった意味でもHXとPXは重なる部分が多いですし、PXを高めるだけで現場の負担が増えてしまっては本末転倒なので僕たちもデザイン思考を考えていかなければなりません。
御内 デザイン思考の手法を使うことで、PXにしてもHXにしても、効率よくエクスペリエンスを改善していけるのではないかと個人的には期待しています。そういったところでもぜひ一緒に協力していきましょう。
――ありがとうございました。
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大日本住友製薬のHXの紹介サイトでは、なぜHXに取り組むのか、医療機関においてなぜPXが重要なのかが、素敵な動画(ホワイトボードアニメーション)でわかりやすく紹介されています。下記リンクからご視聴ください。
Link: https://ds-pharma.jp/learning/hx/movie/
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PXフォーラムの参加申し込みは下記リンクからお願いします。
https://www.pxj.or.jp/pxforum-2019/
2.第30回勉強会を開催!
日本PX研究会は10月19日、第30回勉強会を開催しました。今回は、がん対策推進企業アクション認定講師・産業カウンセラーであるティーペック株式会社の花木裕介さんを招き、がんを経験した立場から患者ニーズや医療者への期待などについて話してもらいました。
花木さんは2017年12月に中咽頭がんの告知を受け、8カ月にわたる化学療法と放射線治療の標準治療を経て、2018年9月に復職しています。突然の告知を受けたショックから、「治療して必ず帰ってくる」と宣言しての治療経過について説明しました。
患者になってわかったという患者ニーズとして、「患者が主体的に治療を選べればコントロール度、モチベーションが高くなり、治療をやりきることができます。患者力を高めていくことが重要」と指摘。患者視点で医療者を捉えた時、「忙しそう」「個人差が大きい」と感じたと言います。「患者の気持ちまでみてもらえると、安心感のある医療を受けられ、患者も頑張ることができます」と話しました。
医療者への期待については、「傾聴力、共感力」「翻訳力」「個別対応力」、そして鈍感な部分をもつことで患者のわがままを受け入れられる「鈍感力」を備えていることを挙げたうえで、「患者は自分の気持ちに共感してくれるだけでも痛みは和らぎます。サービスの質向上に加えて、寄り添いの気持ちがあれば、さらに前向きに頑張れるのではないか」と語りました。
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花木さんには、第2回PXフォーラムのパネルディスカッション「患者にとってPXとは何か」でも語っていただきます。
ブログ「38歳2児の父、まさかの中咽頭がんステージ4体験記!~がんチャレンジャーとしての日々~」
https://ameblo.jp/hanaki-yuusuke/
著書『青臭さのすすめ ―未来の息子たちへの贈り物』(はるかぜ書房)
3. 今後の予定
第31回勉強会を12月14日(土)に開催します。今年1年の締めくくりとなります。
第31回 PX研究会 勉強会
12月14日(土)15:00-17:00
場所:イトーキ SYNQA
※通常と開催時間が異なります。間違えのないようにお越しください。
「PX概論」
「1年の振り返り」 公立昭和病院 事務局業務課課長 笹野孝
会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)
※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
PX研究会の“エクスペリエンスの聖地”に先日行ってきました! かねてから聞いていた飲み物もいただくことができました。どうして聖地なのか……は来年度のPXE講座を受講いただければわかります(笑)。今後メルマガで受講生募集の告知をします!(F)