1.PXと医療者のWell-beingの両立
2.今後の予定
1.PXと医療者のWell-beingの両立
PX(Patient eXperience;患者経験価値)の改善は、医師のWell-beingと相反するものでしょうか? 両者の間の緊張は、パンデミックの課題によって増幅されています。ハーバード・ビジネス・レビューの記事を紹介します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって遠隔医療、デジタルメッセージへの依存の増加、家族の付き添い制限など、複雑な新しいケア提供モデルに直面しています。また、多くの医療従事者は、患者のケアのために自身の安全や健康を犠牲にし、スタッフの削減や新しいケアモデルをサポートするリソース不足によりさらに大きな業務量を担ったり、苛立ちを募らせた患者の怒りに直面したりなど、精神的にも肉体的にも疲れ果てています。その結果、PXを向上させるための情報を受け取る気分ではない人が多く、「また余計なことを頼むのか」と感じているかもしれません。
このような状況では、医療のリーダーたちはどちらかを優先しなければならないと感じるかもしれませんがどちらも不可欠であり、実際にはどちらか一方だけでは不可能です。この状況を打開する糸口は、哲学者のヘーゲルが提唱した「弁証法」(テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼ)が示しています。この構成において、テーゼとは医療提供の改善が必要だという考え方です。アンチテーゼとは、この考え方から生じる抵抗であり、この場合、疲弊した臨床医の怒りです。ジンテーゼとは、議論の結果として生じる第3の考え方です。
改善を推進し、臨床医を維持するのに役立つジンテーゼは次の3つの部分から構成されています。
1.ポジティブな面を強調する
医療従事者に対して「もっと良くなければならない」と伝えるのではなく、彼らのケアが最高の状態にあることを認識させ、そのようなケアを高い信頼性をもって提供できるよう支援します。Appreciative Inquiryという改善手法では、人々が自分の強みを理解し、それを確実に適用すれば、弱みは関係なくなるとします。そして事実として、PXデータの大部分は、医療従事者の強みを強調しており、弱みを強調しているわけではありません。
医師はPX調査に回答する人々は、自分の治療に対して批判的である可能性が高いのではないかと心配しています。実際は、回答した患者の80%以上が、外来診療後に担当医師や医療機関を推薦する可能性について最高評価を与えています。パンデミックにより安全性への懸念が強まった時期でも、肯定的な意見と否定的な意見の比率は4対1であることがわかりました。
多くの組織では、こうしたコメントを医師と共有していませんが共有すべきです。そうすべき理由は、組織や医療そのものに人々を引き留めておくための重要な戦術だからです。12万人の医師を含む120万人以上の医療従事者のデータベースを分析したところ、仕事にやりがいを感じ、仕事に深く関わり、患者を個人として見ることができ、組織が患者のために最善を尽くして素晴らしいケアを提供していると信じている人は、そうでない人よりも組織にとどまる可能性が4~6倍高いことが明らかになりました。
2.心理的安全性の構築
あらゆる質の改善を支援するために、医療機関はフィードバックの授受に必要な心理的安全性を支える文化を必要とします。パンデミックの最中に「集団が分断された」ことが示されています。より強固な組織ではエンゲージメントが向上し、脆弱な組織ではエンゲージメントが低下したのです。そして、エンゲージメントが向上した組織の特徴を調べたところ、臨床医やその他の人々が、チームワークを支え、敬意を育む環境について述べていることがわかりました。臨床医のエンゲージメントと、安全性、PX、その他の品質指標など、あらゆる関心のある結果との間に強い相関関係があることをデータが示しています。最も優れた文化とは、チームメンバーが改善の機会を見つけた際に発言できる環境をリーダーがつくり、その機会を逃さないような強いコミットメントを持っています。 業務に最も近いところにいる人々は、物事がうまくいっていないことを知る専門知識を持っているはずですが、報復を恐れて発言しなければ、その知識は失われてしまいます。
3.システムの修正
「あらゆるシステムは、現状のパフォーマンスを達成するために完璧に設計されている」という指摘は真実であると思われます。PXやその他の品質指標に著しい改善が見られる場合、ほぼ例外なく、システム全体の改善が認められます。システムの改善策を策定するには、医療機関は最前線で働く人々の専門知識を活用する必要があります。臨床医と非臨床医の両方です。介護者は機能不全を経験しており、それが自分や患者に与える影響を理解しています。改善のメリットを最も高く評価できる立場でもあります。
医療従事者のWell-beingを高め、組織への帰属意識をサポートする組織的な改善イニシアティブの例としては、Hawaii Pacific Healthで開始されたGROSS(Get Rid of Stupid Stuff)プログラムがあります。このプログラムは、無意味な文書化やその他の無駄な活動を排除するために、全従業員を招集したものです。このプログラムは、クリーブランド・クリニックやその他の組織でもすぐに採用されました。利点のひとつは、患者ケアの向上に寄与しないものや医療従事者の時間を浪費するものを削減できたことですが、もうひとつの利点は医療現場で働くことの苦悩を理解し、業務プロセスの改善に尽力しているというメッセージが伝わったことです。
医師がさらなるストレスに耐えられず燃え尽きてしまい、多くの患者にとって医療現場が完璧とは程遠い状況であるため、行き詰まりに直面しているように見えるかもしれません。しかし、前進する方法はあります。まず、患者からのフィードバックデータで強調されているポジティブな面に注目し、うまくいっていることの理解を広めます。次に、改善に必要な高い信頼性と心理的安全性に専心する文化の創造に取り組みます。最後に、患者ケアをより実現可能な仕事とし、より妥当な量のストレスで済むようにシステムを改善するために絶え間なく努力することです。
全文は下記リンクからご一読ください。
Link:https://hbr.org/2022/07/patient-experience-and-clinician-well-being-arent-mutually-exclusive?autocomplete=true
2. 今後の予定
※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
某ギャラリーで手打ちうどんを食べられる展示を見ました。手前のピンクの器に麺が入っていて、奥のシルバーの機械で製麺します。アートですね!(F)
