日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.310

1.COVID-19でのPSの変化
2.PXを向上させるテクノロジー
3.今後の予定

1.COVID-19でのPSの変化


医療サービスの質と患者満足度(PS:Patient Satisfaction)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響を受けたとされています。スロベニアでのPS調査では、COVID-19の流行期間では、患者は医師や医療従事者の対応可能な時間とプライバシーの尊重に関する情報ついては満足度が高い一方、患者が苦情や賞賛の申し立ての可能性に関する情報や治療過程に関する事前情報については満足度が低いことが統計的に有意となっています。スロベニア保健省のスタッフによるレポートの概要です。

スロベニアでは医療機関の業務の質を評価する際に患者の参加を確保し、公的医療制度全体の質を向上させるため、2019年9月、PSに関する全国的な測定が確立されました。アンケートは紙とWEB版があり、患者の退院通知書、施設内のポスター、情報リーフレット、医療サービス提供機関のWEBサイトにアンケートのリンクを掲載。全国民を対象に、治療終了後3カ月以内に回答することが推奨されています。

今回の研究は、COVID-19の流行期前後となる2019年10月から2021年6月までの期間に完了した1万2756件のアンケートが分析対象となっています。

調査結果によると、施設の清潔さや整頓(4.65/5点満点)やプライバシーの尊重(4.58)に最も満足していました。最も満足度が低かったのは、苦情申し立てや賞賛の可能性に関する周知(2.99)と、最初の接触時の医療従事者の対応(3.81)でした。 個々の変数(「非常に悪い」「悪い」「まったく良くない」「ほとんど良くない」など)の推定値によると、最大で14%の患者が不満を抱いていました。

COVID-19の流行期前後で統計的に有意だった項目については、「COVID-19の流行時には医療サービスの再編が行われたため、医療従事者へのアクセスに関する患者への情報提供を強化する必要があった。苦情や賞賛の申し立ての可能性について提示し、治療の経過に関する事前情報を提供するという通常の業務プロセスは、おそらく多数の組織変更とスタッフ不足により、縮小せざるを得なかった。しかし、感染拡大防止には多大な注意が払われ、患者の医療はより個別化され、患者のプライバシーがより尊重されるようになった」と分析しています。

この研究は、COVID-19など感染症の流行とそれに伴う対策が、医療に対するPSにどのような影響を与えるかについてのエビデンスとなっています。このような定量的な調査だけでなく、定性的な研究、さらに体系的な対策の実施も可能であるとしています。

全文は下記リンクからご一読ください。
Link:https://pxjournal.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1646&context=journal

2. PXを向上させるテクノロジー


2025年のヘルスケアを形づくる新興テクノロジーやトレンドとはどんなものなのでしょうか。米国メディアプラットフォームであるBecker’s Healthcareが発行する「Becker’s HOSPITAL REVIEW」の61人のコメントのうち、PX(Patient eXperience;患者経験価値)に関連するものをピックアップして紹介します。

Heather O’Sullivan(マサチューセッツ総合病院在宅医療部門社長兼最高執行責任者)

これからの医療は在宅医療であり、「Home Hospital(急性期病棟と同等レベルの診療を在宅において提供すること)」は最も革新的なモデルのひとつです。 急性期医療におけるこの変革的でテクノロジーを活用したアプローチは、患者の満足度と臨床結果を改善します。

Home Hospitalは39州378の病院で提供されるようになりました。2026年度には、AI(人工知能)によって促進されるデータ分析の進歩により、対象となる患者と彼らのニーズをより積極的に、より効果的に特定できるようになり、最終的にはPXと臨床結果の向上につながるでしょう。さらに、革新的なデジタルソリューションにより、消費者、介護者、臨床チーム間のコミュニケーションが強化され、統合と接続性が向上することでHome Hospitalのケアの連携がさらに進むでしょう。

Jasmine Bishopメドスター・テレヘルス・イノベーション・センター/メドスター・ヘルス、マネージング・ディレクター

業界全体を見ると、今後は救急外来や入院患者のスペースを含め、病院内のより多くの患者室にカメラやインフォテイメント・システム(情報と娯楽を組み合わせたシステムやサービス)が導入されるでしょう。メドスター・ヘルスをはじめとする多くの医療システムでは、すでにカメラを活用して、ケアチームと家族が病室を訪れることができるようにしています。最近では、患者の安全をサポートするハードウェアの利用を拡大し、PXと教育を改善するインフォテイメント・システムも導入しました。今後さらに技術が成熟すれば、急性期医療用の追加のモニタリング機器や、ウェアラブル端末を含む患者自身の端末とも相互運用できるようになるでしょう。業界全体を見渡すと、患者は最終的に携帯電話をテレビのリモコンとして使用できるようになり、スマートウォッチのデータが患者カルテ上で確認できるようになるでしょう。

Rahul Kashyap(ウェルスパンヘルス医療研究ディレクター)

AIと機械学習は、今後1年で医療機関に最も大きな影響を与えるでしょう。これらのテクノロジーにより、より正確な診断、個別化された治療計画、患者の予後を改善するための予測分析が可能になります。自然言語処理や大規模言語モデル(生成AI)などのAI搭載ツールは、医療コーディングや患者記録管理などの管理業務を合理化し、コスト削減と効率化を実現します。さらに、ウェアラブルヘルスデバイスや遠隔モニタリングシステムをAIと組み合わせることで、遠隔医療の機能が強化され、リアルタイムの洞察が得られ、積極的なケアが促進されます。医療機関がこれらの技術革新を採用することでPXの改善、リソース配分の最適化、人材不足へのより効果的な対応が可能になります。

全文は下記リンクをご一読ください。

Link:https://www.beckershospitalreview.com/healthcare-information-technology/technology-and-trends-shaping-healthcare-in-2025.html

3. 今後の予定


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編集部から


年始早々ダウンしてしまい、慌ただしく配信ができなかったことをお詫び申し上げます。回復した先週末は久しぶりにハーフマラソンを走りました。練習不足から初の肉離れなどもありましたが、何とか完走できました。ゴールの景色はいつ見ても美しいです。(F)