日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.308

1.第7回PXフォーラムレポート(後編)
2.今後の予定
※今年の配信は終了します。新年は1月9日に配信予定です!

1.第7回PXフォーラムレポート(後編)


12月7日開催の「第7回PXフォーラム」は「働き方改革で考える医療機関の展望−PXとEXの視点−」がテーマでした。後編では、働き方改革関連の講演・シンポジウムの内容を紹介します。

特別講演「職場に笑顔を〜医師の働き方改革の目指すもの〜」は、聖路加国際病院の一般内科医師の藤川葵さんが登壇しました。藤川さんは2021年から今年3月まで、厚生労働省で医師等医療従事者働き方改革推進室の室長補佐として医師の働き方改革の推進に関わる施策を担当していました。

医師の働き方改革について、「組織が健康に働き続けられる環境を整備すること。医師だけでなく他の職種、患者への医療の質・安全確保に思いをはせることになる」と指摘。働き方がなぜ必要なのかについては「国民皆保険は医師の長時間労働に支えられてきた。 いつどこでも医療が受けられる環境づくりに取り組む。長時間労働を改善することで健康な状態で働けるようになり、それが患者への安全につながる」と説明しました。

働き方改革を推進するための方策の1つとして注目されているタスク・シフト/シェアについては、特定行為研修を修了した看護師をはじめ、臨床検査技師や救命救急士、臨床工学技士などの医療専門職の業務範囲の見直しにより医師の負担軽減につながる一方、他職種の働き方改革の弊害になると指摘しました。その解決法として藤川さんは、「人からモノ・ロボットへの業務移管が可能となるよう業務標準化の取り組みが必要」と話しました。

働き方を変えることがEX(Employee eXperience;従業員経験価値)向上につながり、ひいてはPX(Patient eXperience;患者経験価値)を高めることになります。やわたメディカルセンター(石川県小松市)では、2023年にEXサーベイを実施し、課題を見つけ、各部署で取り組んでいます。登壇した滝口尚之さんは人事施策に生かすための考察を述べました。

職員を対象に実施したEXサーベイ結果は、「同僚と協力的に働けている」「今の職についてから、新たなスキルや知識を十分に学んでいる」「直属の上司は適切にサポート・指導してくれる」の項目で肯定的な回答が多かった一方、「病院幹部は私の提案やフィードバックを反映してくれる」「業務量は適切である」「昇進する機会が十分に与えられている」では否定的な回答が寄せられました。滝口さんは、「改善すべき最優先課題をみると、上司とのコミュニケーションが不足していると考えられた。コミュニケーション活性化によりEXが向上し、法人に対するエンゲージメントも向上すると仮説を立てた」と振り返りました。

サーベイ結果から、同院は人事評価方法を見直し、理事長と職員が直接コミュニケーションを図れる機会づくりなどを行いました。「EXは意図的に高めることができる。課題が明確になるEXサーベイの強みを最大限発揮する手法で実施できないかと考えており、心理的安全性を確保したうえで記名式サーベイとすることや、期待値とのギャップ測定の方法などを模索していきたい」と滝口さんは語りました。また、人材確保の観点からオフボーディング(退職時の対応)に注目。質向上によってエンプロイージャーニーが継続され、採用につながる可能性が高いと指摘しました。

働き方改革の実践例を紹介するシンポジウムには、医師と看護師が登壇しました。

順天堂大学医学部附属順天堂医院の診療看護師を務める重冨杏子さんは、「働き方改革とNP(診療看護師)の可能性」について語りました。

循環器医療を専門とする重冨さんは、労働生産人口が減少するなかでNPの役割は大きいと指摘。自院ではNP6人が在籍し、2023年に順天堂NPプロジェクトをスタート。NP活用や体制整備を行っており、看護師の能力開発、高度人材育成だけでなく働き方改革、円滑なチーム医療の推進を実現させています。2025年1月には「NP室」が開設する予定です。

同院におけるNPの診療補助業務は、1人あたり月92.7時間となっており、診療業務の効率化や医師の負担軽減に貢献しています。看護師や医師へのアンケートでは、NP診療行為の参画は全員が肯定的に捉えており、「チーム医療の遂行、一緒に働くスタッフの満足度向上につながっている」と重冨さんは話ししました。また、チーム医療を推進するため、4つの病院で設立した一般社団法人ハートアライアンスのNP業務の分析結果を紹介。NP配置により医師の病棟業務が約20%削減し、リソースの適性分配によって医師の専門性が発揮できているとしました。重冨さんは、「NPは看護師の新たな形。適切な医療システムと医療者自身のWell-beingによって患者のアウトカム向上が期待できる」と締めくくりました。

都立広尾病院の総合診療科医師、小坂鎮太郎さんはこれまで在籍した病院で多職種チームによる地域包括ケアの実現に取り組んできました。その経験から、PXとEXの両立を考えたチームビルディングについて話しました。小坂さんは「EXを改善してPXを高めるのが働き方改革」とし、多職種連携や患者と協働するためのPJM(ペイシェントジャーニーマップ)の作成と活用について説明しました。

小坂さんは「EXを高める方法にもジャーニーマップを活用した、個々の希望に沿ったキャリア支援を行い、加えて互いの期待と評価について理解し合えるチーム形成を行っていくことが組織全体に波及し、よい結果になる」と話しました。多職種でお互いのケアを上げることで患者のADLを落とさずに退院させることがPX向上となる一方で、「スタッフに負荷がかかるストレスフルな環境から離職が増える可能性があるため、患者および多職種へのタスクシフトを行う環境整備が重要」とも指摘。薬剤師が診断に参加することで診断エラーを減らしたり、疑義紹介率が低下したりといったエビデンスを示しました。「PXとEXの両立を実現するため、多職種協働・患者協働の教育、デジタル活用による実現障壁の打破などがさらに期待される」と結論づけました。

今年のPXフォーラムでは、演者のさまざまな視点から働き方改革を考える機会となりました。多くの方に参加いただき、ありがとうございました。来年、2025年は12月6日に開催予定です。テーマなどが決まりましたら当メールマガジンでお知らせします。

2. 今後の予定


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編集部から


年末恒例のライブを観て、クリスマスが終わり、新年を迎える時期となりました。今年もPX研究会にご賛同、ご協力くださりありがとうございました。みなさまにとって2025年が良き年となりますよう願っています!(F)