1.第7回PXフォーラムレポート(前編)
2.今後の予定
1.第7回PXフォーラムレポート(前編)
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は12月7日、「第7回PXフォーラム」を開催しました。今年は200人を超える方にご参加いただきました。フォーラムの概要を報告します。
基調講演「最適解がないなかでの被災者支援から考える『経験価値』〜令和6年能登半島地震で再考した患者中心性医療の在り方と医療者の矜持」は、やわたメディカルセンター(石川県小松市)が能登半島地震での避難者対応、被災地支援、転搬送患者支援などについて話しました。
想定外の600人の避難者を受け入れについて、院長の勝木逹夫さんは「十分な備蓄がなく、避難者への対応についての訓練をしていなかったが、職員一人ひとりが『やれることを、今やる決断』を提案し、実行してくれた」などと語りました。避難者の臨時受け入れを念頭に置き、BCP(事業継続計画)を再作成しました。被災者への支援では、「救援する医療者と支援を受ける被災者との間の行き違いなどがあり、自分と相手の心の位置を踏まえずに患者のPX(Patient eXperience;患者経験価値)は高まらない」などとしました。また、法人グループとして支援活動報告会を実施した結果、「職員の役割の確認と価値の承認ができた。職員のやりがい、EX(Employee eXperience;従業員経験価値)にもつながった」と話しました。
シンポジウムの1つでは、PX研究会がPXを伝えるスペシャリストとして養成しているPXE(Patient eXperience Expert)の第5期生3人が登壇し、受講のきっかけや修了後の取り組みについて発表しました。
医師として重度嚥下障害の患者の往診のほか、医療機関・企業向けにコンサルテーションをしているSwallowish Clinic院長の金沢英哲さんは、知的好奇心と多様性が求められる患者対応などからPXEの受講を決めました。「医療サービスとして、従来は優れた機能、食事、環境をパッケージとして提供していたが、これからは患者の希望に沿った真の多職種連携による非合理的サービス、PXが必要となる。一般消費者向けのCX(Customer experience;顧客経験価値)とPXの違いとして、患者は便利さ、快適さだけを求めているのではなく『安楽』(修行の果てに経験する悟りという心の境地がもたらす状態)を求めている。医療技術に加え、ナラティブの視点、臨床倫理コンサルテーションにコーチングが価値提供のスキルとして重要だとわかった」と金沢さんは指摘しました。
PXE養成講座修了後の課題として、小規模な医療機関ではクリニカルパスに乗らない非定型の対応が求められること、患者の意向が明らかでないことを挙げました。また、顧問先の医療機関の職員に対してEXを啓発していくことも価値があるのではないかとしました。金沢さんは、「患者の幸せと、その循環は患者、職員で完結するものではない。患者にかかわるすべての人が経験価値を共有し、対話を積み重ねていく場をつくりたい」と締めくくりました。
株式会社ケアコム価値共創グループのバリューコーディネーターである大野亮一さんは、企業の視点からPXについての考察を述べました。
ナースコールの製造販売をはじめ、医療機関の課題解決を目指す「共創」を推進するヘルスケア関連企業である同社は、「ヘルスケア領域における価値創出スペシャリストになります」を経営方針に掲げています。大野さんは担当するケアミックス病院の患者満足度向上を考えるなかで、PXにたどり着き、PXEを受講しました。PXEを受講してよかったこととして、「取り組み事例の共有と、ほかの多職種の受講生と課題などについて意見交換ができた」としました。
修了後の取り組みとして、一つは前出の病院で紙による従来の患者満足度調査からWeb版のPXアンケートを作成して実施しました。もう一つは、診察後のPX投票システムです。「患者に診察後に感想を投票してもらい、結果を医師に伝え、医師の行動変容を促す気づきを与えることがPX向上につながる」と大野さんは話しました。
板橋中央総合病院リハビリテーション科係長の浅村海帆さんは、「当院では全病棟に専任スタッフを配置し、患者の80%がリハビリを実施している。しかしリハビリが十分にできておらず、患者の予定・方針がわからないことへの不安があった」とPXE受講のきっかけを説明。「PXEを受講して、妊娠・出産での自分の経験を振り返り、多くの場面で医療に対するニーズを抱えていたことに気づきました。早速自院でPXに取り組もうとしましたが、過去最高に離職率が高かったことから、まずはEX向上が最優先だと考え、取り組むことにしました」と浅村さん。
職員に対し、ジャーニーマップ作成を実施しました。就職活動期、新人入職期、一般スタッフ期、病棟リーダー期、ライフイベント~復職期、役職期の6つのステージに分け、各ステージで業務経験、希望、困難、感情、対策についてそれぞれ検討しました。浅村さんは、「新人入職期へのアプローチとして医療ニーズの把握が大事なことに気づいた。マッピングにより、すでに経験してきたこと、予測される経験について考え、検討することができた。ジャーニーマップは幅広い視点で患者・従業員の経験価値を高める策を打ち出す手立てとなる」と話しました。
PX研究会が昨年設立した研究助成金事業を活用した取り組みについての発表もありました。PXE5期生で、大分大学医学部附属病院リハビリテーション部技術職員の指宿輝さんは、理学療法士として働くなかで退院支援に興味を持ち、そのアプローチにおけるアウトリーチの難しさ、患者視点の重要性に気づきました。「患者満足度のプロセスが大事、PXを理解した理学療法(エビデンス)大事。PXを学び、なぜリハビリのPX尺度がないのか、ないなら作ろうと考えた」と研究に至った背景を語りました。
自院で元々実施していた患者満足度調査を、PXに変更する意義や今後の展望について、上司・部内の委員会と会議にかけ、さらに研究目的として院内の倫理委員会を通して承認を得ました。そのうえで2024年8月から実施しています。指宿さんは、「患者中心の医療を目指すには、リハビリテーション領域におけるPXの実践が重要。そもそもPXの認知度が高くないので、取り組む際には『健全な根回し』が必要」と締めくくりました。
今年のPXフォーラムのテーマは「働き方改革で考える医療機関の展望−PXとEXの視点−」です。来週配信予定の後編では、働き方改革およびEX関連の講演・シンポジウムの概要を紹介します。
2. 今後の予定
※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
PXフォーラムが終わり、個人的に年末感が漂っています。毎年年越しそばを頼んでいるお店で温そばを食べました。急に寒くなりましたがご自愛ください!(F)