日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.302

1.アジアの病院でのPX取り組み
2.臨床試験におけるPX向上
3.今後の予定

1.アジアの病院でのPXの取り組み


PX(Patient eXperience;患者経験価値)はアジアの医療機関でもメジャーな考え方となっています。8月末にインドネシア・バリ島で開催された「HMA(Hospital Management Asia)2024」のシンポジウムでシンガポール、タイ、インドネシアの病院の取り組みが紹介されました。PXを経営戦略に落とし込む、イノベーションにつなげる、現場の負担軽減を実現するといった成果が挙げられています。

「患者は病棟に滞在している間、何を見ているのでしょうか?多くの場合、それは連綿と続く真っ白な天井でしょう。頭の中を占めるのは、不安、健康や家族への心配、あるいは感じている不快感などでしょう」

トムソン・メディカル・グループ(シンガポール)のカスタマーエクスペリエンス部門の責任者であるKwan Wei Jieさんはこのように投げかけ、PXを考えるうえで重要な概念を示しました。PXを改善するには、まずは理解しなければならないということです。「私たちは本当に患者の視点に立って考えているのでしょうか、それとも患者がどう感じているかをわかったつもりになっているのでしょうか? 私たちは、診察から入院、入院、退院、回復までのペイシェントジャーニーをすべて追体験する必要があります」

トムソン・メディカル・グループの戦略は、患者の期待を理解する(understanding patient expectations)、感情的なつながりを構築する(building emotional connections)、そしてポジティブな体験を提供する(delivering positive experience)という「3つのE」を中心に展開しています。その成功例として、患者の待ち時間短縮を紹介。モバイル端末を活用した入院前のプロセス導入により、待ち時間を30分から11分まで短縮できました。

メッドパーク病院(タイ)ではPXの改善に共創と革新的なアプローチを採用しています。患者のニーズを念頭に置き、経営陣と臨床医が共創プロセスを通じて病院を一から作り上げました。多数の革新的なアイデアが生まれ、実際の導入に際して、病院内のシミュレーションセンターでテストと改良が行われました。医師、建築家、エンジニア、サービスデザイナー、そして将来の患者たちが協力し合うこの共創プロセスにより、以下のような設計が実現しました。

  • 自然光が差し込む個室がある血液透析室
  • トイレ付きの集中治療室(トイレを設置することで、移動可能な患者の自立性を維持)
  • 重症度に適応する病棟(入院から退院までのすべての段階の患者ケアを病棟内で提供可能)
  • 自然要素(室内のポケットガーデンや屋外の理学療法用スカイガーデンなど)
  • 吸湿性と冷却機能を備えた患者用ガウン、静電気防止とシワ防止機能を備えたスクラブ

得られた重要な教訓として、「患者は番号や診断名ではなく、異なる夢や目標、不安、動機を持つ個人であるということです」と副事務最高責任者兼イノベーション部門ディレクターであるProud Patanavanich​さんは指摘しました。さらに、医療は病院への来院で始まり、そこで終わるものではないことを強調。「ケアの提供は、サービスデザイナー、エクスペリエンスデザイン研究者、アジャイル開発チームなど、さまざまな人々による人間中心で協調的な取り組みが必要であり、そうすることで真に効果的でインパクトのある成果が得られるのです」

マンダヤ・ロイヤル・ホスピタル・プリ(インドネシア)が患者とその家族の話を聞いたところ、病棟で最も多い苦情は輸液ポンプに関するものだということが明らかになりました。アラームがうるさくて睡眠を妨げられることや、ライン関連の問題が繰り返し発生すること、看護師の対応が遅いことに不満を抱いていました。

対応策を模索していたところ、革新的なスマートポンプ技術に出会いました。世界初の入院患者用移動式スマートポンプは、ナースステーションのダッシュボードに接続されており、容易にモニタリングが可能です。また、何らかの処置が必要な場合は、システムが看護師にアラートを発します。さらに、WiFi対応のポンプは、携帯電話のQRアプリケーションで簡単に登録できます。実証試験で患者や看護師から良いフィードバックが得られたため、スマートポンプは3カ月以内にすべての病棟に導入されました。

「これは比較的小規模な投資でしたが、顧客満足度、ユーザー満足度、プロジェクトのオーナーシップに大きな影響をもたらしました。効率性の向上と看護業務の負担軽減を実現しました。」とマンダヤ病院グループのトップで医師のBen Widajaさんは総括しました。

全文は下記リンクからご一読ください。
Link:https://www-hospitalmanagementasia-com.translate.goog/patient-experience/elevating-patient-experience-inno

2. 臨床試験におけるPX向上


臨床試験においても患者中心、参加者の多様な視点やニーズを理解することがこれまで以上に重要になっています。PXはアジアの医療機関でもメジャーな考え方となっています。

Advanced Clinical社がStuff That Works社およびKnow Rare社と共同で実施した最近の調査では、臨床研究におけるPXの重要な側面が明らかになりました。さまざまな疾患を抱える欧米の500人以上の患者から回答を得ましたが、42.7%は少なくとも1つの希少疾患を抱えていました。

以下に、この調査から得られた6つの主な洞察を紹介します。

1.コミュニケーションの改善が必要

調査では、患者にこれまでの臨床研究の経験、臨床研究に対する希望、今後の参加への関心について質問しました。「臨床研究の経験を通じて準備ができていると感じたか」「最新情報を得られたか」という質問に対する回答から、コミュニケーションにおける重要な傾向が明らかになりました。

患者は一般的に、参加前に十分な情報を得ていると報告されていますが、「まったく」入手できなかったと答えた患者が多くいました。この問題は、欧州よりも北米の方がより顕著であることをデータが示しています。北米の回答者の23.2%が「臨床試験中に最新情報をまったく入手できなかった」と回答しているのに対し、欧州の回答者では10.7%にとどまりました。臨床試験におけるコミュニケーションを改善し、患者をより良くサポートする余地が十分にあることは明らかです。

2.デジタルコミュニケーションを好む傾向

臨床試験中に患者に補足的な試験情報を共有するオンラインアプリの利用は、コミュニケーションの質を大幅に高めることがわかりました。オンラインアプリを通じて補足的な試験情報を受け取らなかった臨床試験参加者は非常に高い割合で、「試験関連情報を提供するオンラインアプリやウェブサイトにアクセスできれば、自身の体験が改善されただろう」と報告しています。

3.年齢による嗜好傾向を考慮

年齢によって患者の嗜好は変わってきます。臨床試験への参加を決定する際に、ロジスティクスや背景に関する情報提供を重要とする傾向は、年齢が高くなるにつれて増していく一方で、快適グッズの提供への関心とは減っていくことがわかりました。

注目すべきは、36~44歳の患者が、平均して最も高い関心を示したのが快適グッズの提供であり、それに対して65歳以上の患者は最も低い関心を示したことです。また、すべての評価基準のなかで最も年齢との相関が強くみられたのは、「試験への参加を決める際に、試験デザインにプラセボ薬が含まれるかどうかについて知らされることが重要」ということでした。臨床試験において患者募集と患者維持を計画する際に、患者の年齢はプロフィールに関する重要な考慮事項となります。

4.患者がどこから臨床情報を求めるか

いくつかの人口統計学的な要因が、患者が臨床試験情報を求める場所や、参加を検討する理由に影響を与える可能性があることも明らかになりました。欧州の回答者は、米国の回答者よりも、政府の臨床試験ウェブサイトから自身の疾患に関連する臨床試験情報を探すことへの関心が高区なっています。一方、米国の回答者は、そうした情報を医師から得ることへの関心が高いことがわかりました。

5.臨床研究への参加動機

希少疾患の患者は臨床研究に参加する動機が明確に異なっています。平均すると、患者は治療の初期段階で臨床研究の選択肢を求める傾向がより強いことがわかりました。さらに、個別化医療を受けられることが、開発中の最新治療を受けられる可能性よりも、臨床研究に参加する動機としてより強い傾向にあることがわかりました。

6.性差による動機傾向

性別も調査回答に影響を与えています。女性患者は、臨床研究への早期参加に高い関心を示し、専門的なケアを受けるために参加する傾向が男性患者よりも高い。一方、男性患者はより新しい、より高度な治療を受けられるという見通しに動機づけられる傾向が強くなっています。

調査結果から臨床研究における患者の多様な視点が浮き彫りになっており、臨床試験の計画において、効果的なコミュニケーション、デジタルツール、患者プロファイルの考慮が重要であることを示しています。

全文は下記リンクから読むことができます。
Link:https://www.appliedclinicaltrialsonline.com/view/enhancing-patient-experience-clinical-trials-global-patient-surveys

3. 今後の予定


PX研究会のオンライン勉強会である「第16回PX寺子屋」を11月9日12:30-13:30に開催します。「PX概論」を渋川医療センターの菅原猛志さん、「国立病院機構 現在のPXの動き」と題して国立病院機構九州グループ医療担当参事の西本祐子さんが発表します。研究会会員は無料、会員以外の方は参加費1000円となります。

※第5回PXE養成講座の前の開催となります。PXEの方、それ以外の方も大歓迎です!以下リンクから申し込みください。

Link:https://www.pxj.or.jp/events/

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第7回PXフォーラムを12月7日14:00-17:00にオンライン開催します。テーマは「働き方改革で考える医療機関の展望−PXとEXの視点−」。2024年4月から医師の働き方改革を受けて、PXとEX(Employee eXperience;従業員経験価値)の視点から、医療従事者のエンゲージメントを高めるキャリア支援のあり方を考えます。厚生労働省で働き方改革を担当した聖路加国際病院の医師である藤川葵さんによる特別講演「働き方改革とPX・EX(仮題)」をはじめ、EXサーベイの実施報告などの講演を企画。医療現場で働き方改革を推進する医師や看護師によるシンポジウムを行います。

PX研究会会員は無料です。参加申し込みは、下記リンクのフォームからお願いします。
Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2024/

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

編集部から


芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋、そして食欲の秋……今年の短い秋を楽しみたいと思います!(F)