日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.300

1.患者満足度を向上させる方法
2.医療現場で親切な行動を増やすには?
3.今後の予定

1.患者満足度を向上させる方法


患者満足度の改善は日本に限らず、世界の医療機関にとって大きな課題です。ヘルスケア関連の情報サイト「HealthcareTransformers.com」でいくつかの改善策が示されていましたので紹介します。

記事では患者満足度向上について、以下のことが挙げられています。

  • 組織はたとえ小規模であっても、前向きかつ革新的な戦略を通じて患者満足度を向上させることができる
  • 医療のリーダーは、患者が受診の全過程を通じて最善のケアを受けていると感じたいと望んでいることを理解しなければならない
  • 患者満足度を向上させるのに役立ついくつかの方法として、意見の衝突などの軽減、遠隔患者モニタリングやより良い患者教育の実施、思いやりのある経験の提供などがある

患者満足度を向上させるために、シンプルかつ効果的な変化をどのように導入できるかについて、医療業界の専門家が示しています。

◼️15分以内で改善できるコミュニケーション

グッドシンク社創設者兼CEOのShawn Achorさんは、リッツ・カールトン・ホテル・チェーンの従業員研修プログラムからヒントを得て、「10/5の方法」として知られる手法を考案し、ルイジアナ州のオクシュナー・ヘルスシステムで実践しました。リッツ・カールトンでは、顧客と10フィート以内で遭遇した場合はアイコンタクトと笑顔で応対し、5フィート以内に近づいた場合は、従業員が挨拶をするということが実践されています。

オクシュナー・ヘルスシステムで10/5の方法を導入したところ、患者の来院数が大幅に増加し、患者紹介も増え、医師の意欲も向上しました。「ほんの1秒の行動変革が、病院の収益増加、より多くの患者のケア、ケアの質に対するより良い評価、そして医療従事者のより高い幸福度につながったのです」とShawnさんは指摘します。 病院は笑顔と接触を通じて、ケアの質と関わり方を簡単に変えることができることを示した結果です。

また、患者のポジティブな体験は、ポジティブな従業員から始まる、とも指摘しています。 リーダーシップチームは、まず従業員のネガティブな態度、ストレス、不安から生じる問題に対処することで、より良い患者満足度を実現することができます。 Shawnさんによると、小さな介入が、組織の最も重要な競争優位性のひとつである幸福度を劇的に改善できるといいます。

◼️患者との衝突ポイントを減らす

ExPeers Consultingの創設者兼CEOであるDiane Hopkinsさんは、「PX(Patient eXperience;患者経験価値)の改善を目指すなら、患者との衝突ポイントを減らす必要がある」としています。

医療は患者にとって非常に複雑で困難な場合があるため、リーダーシップチームは患者に確実に便利で、比較的ストレスのない体験を提供する必要があります。Dianeさんが指摘する「Friction-Defection Progression™(摩擦・離反進行)モデル」では、例えば医師の予約などが上手くいかなかったりすると、患者は不満を抱き、最終的には他の医療機関に離反してしまうことを示唆しています。「衝突が生じるポイントを特定するには、患者からの苦情の評価、スタッフへのアンケート調査、競合する医療機関のサービスとの比較などから始めるべきでしょう」とDianeさんは提案します。

◼️イノベーションによりPXを再創造

世界的に著名なデジタル人類学者であり未来学者でもあるBrian Solisさんは、「患者はサービス、製品(物理的およびデジタルの両方)、ブランドそのものを体験を通じて認識し、記憶します」「PXの設計には、思いやりと共感が必要です。 同時に患者の好み、期待、希望に沿うものでなければなりません。 患者には選択肢があることを忘れてはなりません」と話しています。

医療システムにおけるペイシェント・ジャーニーの多くは非効率で、患者を寄せ付けず、断絶されている場合があるため、医療のリーダーは患者が再び来院し、その医療機関全体に対して好意的な感情を抱く可能性のある、より魅力的な体験を考慮する必要があります。PXの設計を強化するための人間中心のイノベーションは、あらゆる接点において考慮される必要があります。ペイシェント・ジャーニーの各段階において記憶を呼び起こし、それがブランドと密接に関連づけられ、ビジネスに大きな影響を与えることになります。「PXにおけるイノベーションは、他との差別化だけでなく、新しい価値を提供し、体験の新しい基準を打ち立てることで業界全体を前進させることにもつながります」とBrianは言います。

PXの変革を効果的に行うために、Brianさんは、次世代のPXのために医療リーダーが投資すべき4つの柱として以下を示しています。

  • イノベーション:エクスペリエンスのイノベーションは差別化要因となり、ペイシェント・ジャーニーに新たな価値を生み出します。 これまでにない価値を提供するために、新しい、そしてこれまでにないエクスペリエンスを創造しましょう。
  • データ主導の共感:人間的な共感に加え、データ主導の共感は、パーソナライズされたエンゲージメントとより情報に基づいたケアを実現します。 実体験と患者データにより、医療リーダーは人々のエクスペリエンス、期待、望ましい結果について学ぶことができます。
  • 空間デザイン:物理的空間とデジタル空間を再考することで、直感的で、インスピレーションに富み、つながりのある体験をつくり出します。あらゆる接点が慎重に設計されるよう、機能と体験を改善し、導入します。
  • 人々と文化:イノベーション文化を築くことで、業界をリードするPXを提供できるチームが生まれます。文化は従業員の行動に影響を与えるため、共有されたビジョン、価値観、目的を中心に据える必要があります。

さらにBrianさんは、医療業界のリーダーが今日から実行できる7つのステップを概説しています。

  1. PXの設計とイノベーションを主導するチームを作る
  2. 患者の声を聞き、患者と従業員の痛みを体験する
  3. 体験ツアーやイノベーションツアーに積極的に参加する(そしてそれを習慣化する
  4. 新しい時代の新しいPXを思い浮かべる
  5. すべての投資が相互に有益となるようにする…そのために重要なものを測定する
  6. ダイナミックなCRM(customer relationship management ;顧客関係管理)プラットフォームを導入し、患者の健康状態の変化に応じて個別に対応する
  7. 従業員のエンゲージメント、士気、企業文化を監査する

◼️遠隔患者モニタリングの導入

Veta Healthの共同創設者であるTanvi Vattikuti-Abbhiさんと医師のNora Zetscheさんは、遠隔患者モニタリングによる使いやすいデジタルケアプランが再入院を減らし、最終的には患者満足度の向上につながると提案しています。 彼らが特に強調しているのは、これらのデジタルツールの導入により、患者が自身のケアをより適切に管理できるようになるという点です。

患者と医師の間の協力体制を構築することで、デジタルツールによる積極的なケア管理は、医療機関の外で患者専用のリソースへのアクセスを可能にし、患者の積極的な関与につながる可能性があります。人口の高齢化と慢性疾患の増加に伴い、医療機関では、患者がどのようにケアを受けるかという点について、質と即時性の両面で、より高い要求が寄せられるようになります。これに伴い、患者は自宅で快適に健康管理ができるツールを求めるようになるでしょう。

Veta Healthのチームは、医療関係者がこれらのデジタル技術を業務に統合し、患者満足度を向上させる方法を見出す可能性を秘めた3つの重要な洞察を提供しています。

  • 患者を教育し、患者を中心に据える
  • 快適性と透明性を通じて患者の信頼を築く
  • 患者が自身の健康状態を管理できるようにする

◼️患者としてパーフェクトな結果

元集中治療室(ICU)患者であり、『Life 2.0 – A Journey From Near Death to New Life』の著者であるKevin KirkseyさんはPXを向上させることの意味をよく理解しています。 Kevinさんは医療の専門家ではありませんが、自身の経験と研究に基づき、患者ケアを劇的に変え、患者満足度を向上させることができる事例について説明しています。Kevinさんによれば、たとえ予後が悪くとも「患者としてパーフェクトな結果」と見なされる可能性があり、患者や介護者に対して、非常にポジティブな影響を与えることができます。それは従業員によるシンプルな行動によって達成することができ、患者と介護者の両方がペイシェント・ジャーニーを通じてポジティブな経験を得られることを示しています。

Kevinさんは「患者としてパーフェクトな結果」を次のように要約しています。

  • 素晴らしい経験
  • 将来の医療ニーズに対応するために同じ施設に戻ってくる
  • その体験を他の人に伝える

医療機関は、臨床および非臨床の両方の従業員が思いやりがあり、価値があり、勇気づけられ、快適な体験を患者に提供する方法を見つけ出す必要があります。そうすることで、リーダーたちは患者や介護者に対して、自分たちが不可欠であり、ケアが最優先事項であることを示すことができます。

◼️患者教育の改善

デジタル患者教育の改善が、患者の健康状態に大きな影響を与える可能性があると、medudocの共同創設者であり事業開発ディレクターのMona Ciottaさんは述べています。

現在、提供されている情報の多くは患者中心ではなく、不安やフラストレーションにつながる可能性があります。「治療プロセスにおいて患者に提供される医療情報は、患者中心の言葉やビジュアルが欠けています。よりパーソナライズされた教育ソリューションを導入することで、患者は力を得たように感じ、より楽観的になることができます」とMonaさんは言います。

医療のリーダーにとって優れた教育リソースを導入することは、組織の効率を高め、インフォームドコンセントに影響を与えることにつながり、患者はより良く、より多くの情報を得たうえで治療に関する決定を行うことができます。

患者教育を改善するために、経営者は以下のようなことを行います。

  • 施設内での患者教育の改善を支援してくれるパートナーを見つける
  • 新しいアイデアやアプローチはプロセスを改善し、現状に疑問を投げかける
  • 新しいデジタルソリューションを議論したり導入したりする際には、ペイシェント・ジャーニーのすべてのステップに関わる人々を巻き込む
  • 患者を力づけ、医師が重要なことに集中できる自由を与えるために、新しい現状を受け入れる

患者が自身のケアにより積極的に関わることで、患者は治療の全体像をより深く理解できるようになり、その結果、患者満足度が向上します。

全文は下記リンクに掲載されています。

Link:https://healthcaretransformers.com/patient-experience/how-to-improve-patient-satisfaction/

2. 医療現場で親切な行動を増やすには?


アリゾナ大学教授のJeannette Maréさんは、2002年に2歳だった息子を亡くした経験から社会行動科学者として、思いやりについて研究しています。息子を亡くすという最悪の事態を経験した際に、数十人の親切な病院スタッフに愛され、支えられたというポジティブな感情が、思いやりについて考える方法を変えたといいます。

「思いやりは『ソフト』なものだとか、思いやりを育む取り組みは本質的な問題が解決するまで後回しにしてもよいという考え方には反対です。思いやりを第一に考えることで、人々が力を合わせて最高の仕事をするための条件が整うことを、私は経験から学び、その後の長年の研究で学びました。医療の質と安全性は、チーム内および患者や家族との強固な関係に依存しており、良好な関係は思いやりのある交流によって築かれます」とJeannette さんは指摘します。

Jeannette さんはツーソン大学医学部や地元の医療機関と提携し、思いやりのある行動を増やす方法について研究しています。思いやりのある行動を増やそうとする前に、具体的にどのような行動を増やそうとしているのかを把握する必要があるため、まずは思いやりのある行動と行動のカテゴリーを特定し、思いやりをさまざまな種類に分類しています。例えば、廊下で誰かに挨拶することは、愛する家族を亡くしたばかりの家族を慰めることとは異なる思いやりのある行動です。「私たちの目標は、あらゆる種類の思いやりのある行動を増やすことであり、異なる種類の思いやりには異なるスキルセットや条件が必要であるという理解は、そのための重要な第一歩です」とJeannette さん。

「PXとは患者が来院中に経験するすべてのやりとりの総体であり、EX(Employee eXperience;従業員経験価値)とは勤務中に経験するやりとりの総体であることを理解しています。 ポジティブな体験を得るには、毎日多くの親切なやりとりが必要です。 私たちの調査によると、それらのやりとりはそれほど長い時間を要するものではありませんが、積み重なることで、その人が見られていること、大切にされていること、気にかけられていることが伝わります。『思いやりは良薬』を掲げ、毎日もっと親切にするよう呼びかけています。私たちは現在、基礎研究を基に、今後親切を増やしていくための計画を立てています。また、私たちが学んだことを共有できることを楽しみにしています」

全文は下記リンクからご一読ください。
Link:https://theberylinstitute.org/product/kindness-is-good-medicine-research-in-increasing-kind-behaviors-in-healthcare/

3. 今後の予定


PX研究会ではPXに関する研究を推進するための助成金制度を設けています。助成対象はPX、EXを測定するサーベイを実施、そのうえでPX、EXを向上させる取り組みを⾏い、その成果を評価するまでの⼀連の研究・実践となります。病院、診療所、介護保険サービス提供事業所のほか、製薬企業や医療機器企業の職員、保健医療福祉に関係する⾏政職員が対象です。申請期間は10月31日までです。

https://www.pxj.or.jp/joseikin-2024/

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

編集部から


流行りものにはすぐに乗ってしまいがちですが、肺炎にかかっていました。気管支が弱いのと免疫力が低いので何とか改善したいです。みなさまもご自愛ください。(F)