1.米国の病院がPXに投資する理由
2.AIで患者中心ケアを改善
3.今後の予定
1.米国の病院がPXに投資する理由
米国のヘルスケア業界は消費者主義の傾向が最前線に押し上げられており、病院トップはPX(Patient eXperience;患者経験価値)に多額の投資を行う傾向が強くなっています。米国メディアプラットフォームであるBecker’s Healthcareが発行する「Becker’s HOSPITAL REVIEW」の記事を紹介します。
ミネソタ州ロチェスターに拠点を置くメイヨークリニックの最大の価値は患者第一主義であり、リーダーシップチーム全体がPXを改善するための新しい方法を継続的に監視し、導入しています。テクノロジーを活用して人とデータ洞察を結びつけ、よりシームレスで個別化されたケアプランを実現しています。ここ数年、物理的な施設内にアンビエントインテリジェンス(センサーによって人の行動データを蓄積・解析すること)と患者一人ひとりにカスタマイズしたディスプレイを導入しています。
「私たちは、デジタル投資と並行して物理的な構造にも投資し、患者の予測されるニーズに合わせてラボや画像診断、治療が提供される『近隣地域』において、直感的な体験を作り出そうとしています」と、メイヨークリニックアリゾナのCEO兼メイヨークリニックの副代表であるMayo Clinicさんは述べています。「この患者中心のアプローチは、メイヨークリニックケアホテル、アドバンスケアアットホーム、キャンサーケアビヨンドウォールズといったプログラムを通じて、キャンパス外にも拡大しています。これらのプログラムでは、高度な技術を用いて患者をモニタリングし、コミュニケーションを図りながら、自宅の快適な環境で病院と同等のケアを提供しています」
イリノイ州スプリングフィールドのホスピタルシスターズヘルスシステムの代表兼CEOであるDamond Boatwrightさんも、患者満足度とケアの連続性全体にわたるデジタル体験プラットフォームの改善を目的に、テクノロジーへの投資を行っています。Damond さんは、患者がサービスを検索し始めてからケアを受け、請求プロセスに至るまでの間、患者が自院と、どのようにかかわるかに注目しています。
「私たちは、健康を託してくださるすべての方々に素晴らしいケア体験を提供したいと考えています。つまり、当院とのかかわりがすべてポジティブでなければならないということです」とDamond さんは語ります。「救急外来の患者を迅速に診察し、必要に応じて迅速に入院させるなど、主要部門で大幅な業務改善が実現しました」
バージニア大学医療センター(UVA Health)のCEOであり、同大学の医療担当副学長でもあるCraig Kentさんにとっても、救急外来は重要な課題でした。同センターは最近、患者の流れを改善するために、救急外来を「品質改善モデル」を用いて改革しました。
「これにより、待合室の混雑緩和、待ち時間の全体的な短縮、患者の安全性と満足度の向上に多大な影響をもたらしました。同時に、患者数の着実な増加にも対応することができました」とCraigさんは語ります。
同センターは2019年、フラッグシップである学術医療センターに80床の新しい救急外来を開設しましたが、COVID-19のパンデミックの間は十分に最適化されていませんでした。また、過去4年間の患者急増に対応できる設備も整っていませんでした。Craigさんは、患者フローの全面的な再構築の必要性を認識していました。
「私たちは、重症度と専門分野に基づくモデルを採用し、受付時にトリアージを行う医師を配置して、治療を迅速化し、検査を加速化しています」と述べます。「患者は重症度によってトリアージされます。私たちはリアルタイムの患者フローリーダーを導入し、遅延を未然に防ぎ、解決しています。また、すべての病院の救急外来を訪れる重症度が低い、または中程度の患者については『ベッドからイス』に置き換えることで、垂直型ケアも導入しました」
また、すべての病院の急性期治療エリアに新患用のスペースを確保するために、入院待機病棟も新設しました。変革後、すべての救急医療の評価指標が改善し、救急外来の患者数は昨年度予算を18%上回りました。
オマハのチルドレンズ・ネブラスカの社長兼CEOであるChandra Chaconさんは、異なるアプローチを取っています。ケアチームを率いて患者と家族に適切な体験を提供するために、医療従事者の評価、育成、協力の機会を通じて医療従事者の関与を図っています。
「私たちは人材に投資しています。私たちのスタッフは患者や家族に素晴らしい体験を提供したいと考えています。ですから、彼らに力を与え、それを可能にすることで、私たちの成功はさらに高まります。私たちは患者や家族の話を聞き、素晴らしい体験とはどのようなものかを定義しています。そして、私たちのチームを調整し、私たちが支援する人々にとって重要なことに焦点を絞って努力しています」とChandraさんは話します。
2. AIで患者中心ケアを改善
イェール大学医学部准教授のSamah Fodeh-Jaradさんは人工知能(AI)を活用して医療サービスが十分に提供されていない集団の医療を向上させる2つの大型研究助成金を獲得しました。彼女の研究は、患者が医療に関してより強い発言力を得ることに焦点を当てています。
研究助成金の1つは、PCORI(Patient-Centered Outcomes Research Institute;患者中心アウトカム研究所)で、約105万ドルの助成金を獲得し、臨床記録から患者の懸念や希望を把握・分析し、メンタルヘルスへの影響を評価するAIツール「PVminer」の開発に取り組んでいます。もう1つは、米国国立がん研究所から約350万ドルのR01助成金を受け、機械学習ツールである「EPPCminer」を使用して、患者ポータル内のメッセージを活用し、がんケアにおける患者と医療提供者のコミュニケーションを研究するものです。このプロジェクトでは、服薬アドヒアランスや入院などの結果に対するその効果を評価することができます。
PCORIの研究ではメンタルヘルス、NIHのプロジェクトではがんという異なる医療分野に焦点を当てているものの、両方の研究はAIを通じてPXを医療に取り入れるという目標を共有しています。各プロジェクトにはエール大学のほか、クリーブランドクリニック、退役軍人医療管理局(VHA)、テキサス慈善クリニック協会(TXACC)の研究者との全国的な学際的な連携が含まれます。研究者は、複雑な統計モデリングを用いた観察研究の設計と分析、および新しい技術の開発とテストに関する専門知識を提供します。
クリーブランドクリニックでは、2023年1〜8月にかけて、患者ポータルサイトで非同期メッセージングを使用した患者からのメッセージは110万件を超えました。メッセージングを使用した患者の20%以上は白人以外で、このグループではメッセージングを使用した患者の半数以上(52%)が黒人またはアフリカ系アメリカ人でした。この研究では、PVminerを開発し、膨大な臨床データから患者の要望、ニーズ、不安、好みを表す患者の声を抽出しています。
また、国立がん研究所の研究では、患者と医療従事者のコミュニケーションのカテゴリーの注釈付けを改善するハイブリッドアプローチに基づく多クラス分類器であるEPPCminerを開発し、トピックモデリングやディープラーニングを使用する既存のモデルと比較してその性能を評価します。
「この種の研究に興味があるのは、患者により良いサービスを提供し、患者のニーズに応え、治療を受ける際の障壁を取り除きたいという情熱からです。私は、患者の声を聞き、それをより広範なデータ分析に役立つ構造化された形式に変換するために、キャリアの初期からこの研究に取り組んできました」とSamahさんは話します。患者がニーズを表明し、個人的な見解を提供できるツールを作成し、最終的には患者中心のケアを改善することを目指しています。
全文は下記リンクからご一読ください。
Link:https://medicine.yale.edu/news-article/fodeh-jarad-awarded-major-grants-for-ai-driven-patient-centered-research/
3. 今後の予定
PX研究会ではPXに関する研究を推進するための助成金制度を設けています。助成対象はPX、EXを測定するサーベイを実施、そのうえでPX、EXを向上させる取り組みを⾏い、その成果を評価するまでの⼀連の研究・実践となります。病院、診療所、介護保険サービス提供事業所のほか、製薬企業や医療機器企業の職員、保健医療福祉に関係する⾏政職員が対象です。申請期間は10月31日までです。
https://www.pxj.or.jp/joseikin-2024/
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
低血糖になりやすいため、常にラムネを持ち歩いています。最近見つけたお気に入りです。(F)