日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.292

1.患者中心の医薬品開発
2.シンガポールのPX調査
3.今後の予定

1.患者中心の医薬品開発


海外の製薬会社では、PX(Patient eXperience;患者経験価値)を改善すべく、行動科学に基づいた医薬品設計・開発が注目されています。英国William Reed社が運営するオンラインサイト「Outsourcing-Pharma」のシニアエディターのLiza Lawsさんによる、マーケティング会社AlpharmaximのCEOであるWillian Hind(WH)さんと、医療関連コンサルティング会社SSI StrategyのシニアデイレクターLisa Campbell(LC)さんへのインタビュー記事の概要(一部抜粋)です。

ーー臨床と薬事におけるあなたの経験に基づき、PFDD(Patient-Focused Drug Development;患者中心の医薬品開発)は、薬事産業における治療の全体的な成功にどのような影響を与えると考えていますか?

LC:PFDDでは、治療薬の設計・開発の初期段階から、より幅広いPXを前面に出すよう努めています。早期研究によって障壁を理解することで、開発者はスタート時から、これらの要因を考慮することができます。

ーー行動科学は、バイオ医薬品の製品プロファイリングやマーケティング戦略にどのように統合され、患者中心主義を強化することができますか?

WH:目標は、医薬品設計の初期段階から患者の優先順位について科学的裏付けのある研究を行い、そのデータを製品の意思決定やコミュニケーションのサポートに活用することです。研究はしているものの、それを活用しない企業もあれば、臨床効果に重点を置きすぎて患者の要因や感受性を後回しにしている企業もあります。PFDDは希少疾病の領域で特に価値があり、患者が臨床試験に最も関連するポイントを定義づけします。

ーー製薬業界は患者の優先順位や行動科学からの知見を活用して、どのように医薬品開発のイノベーションを推進できるのでしょうか?

LC:新しい治療法の普及を阻む大きな障壁は、未知のものに対する患者の恐怖心です。初期の患者エビデンスに支えられた製品設計やメッセージにおいて、このような恐怖に正面から取り組むことは、患者アウトカムを改善する強力な機会を提供します。例えば、新しい治療法によって生涯にわたるレジメンに終止符を打てば、患者にとっては大きな収穫となり、医療提供者にとっては大幅なリソースの節約となります。

ーー行動科学研究を通じて新しい治療法の患者受容性を理解することで、投資家はどのような利益を得ることができますか?

WH:これまでの成功の尺度だけでなく、患者の優先順位を理解することは、特に限られた人々に対する高コストの治療法では極めて重要です。行動科学的な洞察は、初期の研究をデザインし、PXを変えるナラティブを作成するのに役立ち、市場での成功を最大化します。

ーー医薬品開発における行動科学が患者アウトカムや治療アドヒアランスを改善した例を教えてください。

LC:英国のCOVID-19ワクチン接種プログラムでは、行動科学が重要な役割を果たしました。行動科学的な洞察は、ワクチン接種のためらいに対処し、一般市民の関与を改善するのに役立ち、ワクチン接種率の向上につながりました。これは、COVID-19ワクチン接種に対する医療・福祉従事者の信念、態度、行動を理解することによって達成されたといえます。

ーー製薬会社が製品開発の初期段階で、未開拓の機会を見出すうえで、行動科学が果たす役割の進化をどのように捉えていますか?

WH:患者にとって何が重要かを理解するためのデータ主導のアプローチは不可欠です。例えば、薬のデリバリー・モードは非常に重要です。発見段階で患者要因に関するデータを収集することは、製品の成功に大きな影響を与える可能性があります。

ーー新しい治療法の承認プロセスにおいて、患者の優先事項や行動科学的な洞察を取り入れるために、規制の状況はどのように変化すると思いますか?

LC:EMA(European Medicines Agency;欧州医薬品庁)のような規制機関は、医薬品の開発・承認において、PXデータをより重視しています。患者の視点が考慮されるよう、規制当局、患者団体、医療専門家、製薬業界の協力体制が強化されるでしょう。また、規制当局のプロセスも適応性が高まり、実際のエビデンスや承認後の患者からのフィードバックに基づいて修正できるようになるかもしれません。

ーー行動科学を通じて患者中心のアプローチを強化しようとしているバイオ製薬企業に、どのようなアドバイスをしますか?

WH:アプローチの重要性を理解するだけでなく、企業は医薬品デザインに行動科学を組み込み、新薬の受容を促進する要因や障壁に関するデータを収集すべきです。患者のニーズを真に理解するためには、客観的な調査が不可欠となります。

Link:https://www.outsourcing-pharma.com/Article/2024/06/18/Is-behavioral-science-key-to-patient-focused-drug-development

2. シンガポールのPX調査


総合コンサルティング会社であるアクセンチュアは2021年、シンガポールで653人を対象にPXに関連する調査を実施しています。健康管理ではデジタル活用が遅れていること、多くの患者が治療と同じように精神的なケアを受けたいと考えていることなどが報告されています。

★46%が「デジタル活用していない」

シンガポールでは、COVID-19のロックダウンや社会的ディスタンスのガイドラインに対応するため、健康ニーズを管理するためのバーチャル予約をはじめ、デジタル技術が広く利用可能になりました。しかし、46%が「過去1年間に健康管理にデジタルを使用していない」と回答するなど、導入率は他の国と比較して低くなっています。28%がウエアラブル端末を、17%がデジタルによる健康記録、15%がスマートフォンのアプリを使用しています。

PXで重要なのは「明確な説明と共感」

シンガポールの回答者は、PXへの高い満足度が報告されています。「医療提供者とのよい経験を生み出すために最も重要な要素は何か」との質問に対し、「患者の状態や治療をわかりやすく説明してくれる」 (61%) 「患者の話に耳を傾け、ニーズを理解し、精神的なサポートを提供する」 (39%) が回答の上位 を占めています。これは、関与やサポートしてくれる医療提供者の必要性を強調しているといえます。ヒューマンタッチ、人と人との関わりはPXをポジティブなものにするために不可欠です。思いやりのある医療提供者がいることは、きれいで清潔な施設よりもずっと重要です。

このレポートでは、「人々の期待に応えるためにエコシステム全体の医療関係者が緊密に連携すること、サービスの効率と治療効果を高める高品質で手頃なデジタル技術、そして感情的なサポートと共感を提供する医療提供者が必要である」と結論づけています。

レポート全文は下記リンクにあります。

Link:https://www.accenture.com/content/dam/accenture/final/a-com-migration/r3-3/pdf/pdf-171/accenture-digital-adoption-healthcare-singapore.pdf#zoom=40

3. 今後の予定


2024年度のPXE6期生の募集を開始しました。全5回で、PX概論からペイシェントジャーニーマップの作成、PXに欠かせないコミュニケーションなどを学ぶことができます。PXE同期、卒業生とのネットワークにより、PX実践につながる交流も図れます。

医療者だけでなく企業勤務の方も受講可能です。申し込みは下記リンクからお願いします。https://www.pxj.or.jp/pxe6/

※6期からはPX研究会編著の書籍『ペイシェント・エクスペリエンスー日本の医療を変え、質を高める最新メソッド』(三輪書店)をテキストとして使用しますので、受講生の方は下記から各自でご購入をお願いします。

三輪書店オンラインショップhttps://shop.miwapubl.com/products/detail/2713 

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4895908062?ref_=cm_sw_r_cp_ud_dp_TQ04SWYRV6624N0S4X4K 

※全国の書店でも購入できます。

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

編集部から


家で過ごすことが多く、16歳のおじいちゃん猫とすっかり仲良くなりました。「こっちに来い」「お腹空いた」「抱っこして」などの要求に応える時間を大切にしています。(F)