日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.276

1.PX向上に影響する5つのキーファクター
2.バーチャルのPXは実際の病院より高い
3.今後の予定

1.PX向上に影響する5つのキーファクター


オンライン評価管理を行うSaasプラットフォームであるRepuGenのプロダクトマーケティングマネジャーであるLauren Parrさんは、「PX(Patient eXperience;患者経験価値)は、医療機関の患者満足度と収益の獲得に大きく影響する、医療において極めて重要な側面です」と指摘。ポジティブな体験は患者の忠誠心、口コミによる推薦、アウトカムの改善に寄与する一方、ネガティブな体験は患者の不満、信頼の喪失、さらには法的な影響につながる可能性があるとしています。

些細なしぐさや行動がPXに大きな影響を与える可能性があることから、医療機関がPXにプラスの影響を与えるための重要な要素として、Laurenさんは次の5つを挙げています。

1.交流とコミュニケーション

医療従事者が患者とどのように接し、コミュニケーションをとるかは、PXを形成するうえで重要な役割を果たします。個人的な交流と効果的なコミュニケーションによって、患者は大切にされ、尊重され、よくケアされていると感じることができます。アイコンタクトを保つ、患者の話に積極的に耳を傾ける、真の心配りを示すといった簡単な仕草は、信頼関係の構築や患者の不安の緩和に大きな影響を与えます。

医療従事者と患者が効果的なコミュニケーションをとることで、患者の満足度が高まり、治療成績が向上し、治療計画の遵守率が高まることが研究で実証されています。オープンで共感的なコミュニケーションを育むことで、医療従事者は患者とのより強いつながりを築き、患者の懸念によりよく対応し、個人に合ったケアを提供することができます。

2.スタッフの振る舞い

医療機関のスタッフの態度や振る舞いはPXに大きな影響を与えます。親しみやすく、親切で思いやりのあるスタッフは、患者を安心させる環境を作り出します。PXを優先するスタッフのトレーニングは極めて重要です。共感、コミュニケーション、顧客サービスのスキルに焦点を当てた研修プログラムに投資することです。よく訓練されたスタッフは、困難な状況にもしなやかに対処し、正確な情報を提供し、患者が医療を受ける過程で必要とするサポートを提供することができます。

3.患者の利便性

利便性は、PXの重要な側面です。患者は、医療サービスへのアクセスが容易であり、シームレスで手間のかからない体験を重視します。医療機関は、プロセスを合理化し、予約スケジューリングシステムを改善し、待ち時間や手続きに関する明確kつ簡潔なコミュニケーションを確保することで、患者の利便性を高めることができます。

患者ポータル、バーチャル診察などのデジタルの進歩は、患者の満足度を大幅に向上させることができます。テクノロジーを取り入れ、患者中心のソリューションを取り入れることで、医療現場は満足度を高め、患者のストレスを軽減し、PXを最適化することができます。

4.医療費

PX向上には、透明性の高い価格設定と公正な請求が不可欠です。隠れた請求、不意打ちの請求、複雑な保険手続きは、患者に不必要なストレスとフラストレーションを与えます。前もって費用の見積もりを提示し、保険の適用範囲を明確に説明し、経済的な支援オプションを提供することで、患者の不安を大幅に軽減し、全体的な体験を向上させることができます。価格の透明性を優先し、経済的責任に関して患者と積極的にかかわる医療機関は、患者と信頼を築き、長期的なパートナーシップを築く可能性が高くなります。

5.フォローアップ

患者への定期的なフォローアップはPXを確保し、医療成果を最適化するうえで極めて重要です。フォローアップを行うことは、初診や治療を超えた患者ケアへのコミットメントを示すものであり、患者の全体的な満足度と幸福感に大きな影響を与えます。

医療提供者が定期的なフォローアップを怠ると、いくつかの悪影響が生じる可能性があります。例えば患者は無視されていると感じたり、見捨てられたと感じ、信頼関係の崩壊や医療行為に対する否定的な認識につながります。一方、一貫したフォローアップは、患者にとっても医療提供者にとっても多くの利点があります。患者の経過を継続的にモニタリングし、治療計画が効果的であることを確認し、懸念や問題が生じた場合にはそれに対処することができます。


PX向上には、小さいながらも影響力のあるさまざまな要素に焦点を当てることが必要です。効果的なコミュニケーションや対人スキルから、スタッフの振る舞い、患者の利便性、透明性の高い価格設定、定期的なフォローアップに至るまで、各要素はポジティブで記憶に残り、PXに貢献します。全文は下記からご一読ください。

Link: https://www.forbes.com/sites/forbescommunicationscouncil/2023/06/22/how-to-maximize-patient-experience-five-key-factors-with-a-big-impact/?sh=6f05431215f2

2. バーチャルのPXは実際の病院よりも高い


PXに取り組む先進的な病院として知られる米国のクリーブランドクリニックは、フロリダ州にある分院で2023年4月、これまで病院で行ってきた急性期医療の一部を在宅に移行する「Cleveland Clinic Hospital Care At Home℠」を開設しました。この“バーチャル病院”でのPXスコアは、実際の病院より上回っています。

急性期医療を在宅に移行した背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる医療従事者の燃え尽き症候群や離職の増加に伴う人員確保や、病院の閉鎖、プライベート・エクイティ企業による病院の買収、統合などによる経営悪化があります。そのため米国の医療システムは、急性期医療改革に迫られています。急性期医療の在宅への移行は診療報酬や規制によって妨げられていましたが、COVID-19によってCMS(the Centers for Medicare & Medicaid Services)は病院ケアを建物の外で提供するための規制や障壁を撤廃し、在宅急性期病院ケア(AHCAH)構想を発表。AHCAHに参加する病院は、患者の安全性を担保するためにCMSへのデータ報告が義務付けられています。

クリーブランドクリニックのフロリダ分院では3年前から、患者ケアの質と安全性を向上させ、医療従事者の労働環境を改善し、患者、病院、そして医療コミュニティ全体にとってより持続可能な医療提供モデルを開発することを目標に、急性期病院ケアの提供を再考する機会を模索し始めました。議論の中心にあったのは、新しい病院を建設するといった法外な資本コストをかけずに病床のキャパシティを増やすこと、スタッフの生産性を向上させながら精神的・肉体的なバーンアウトを減らすこと、そして複雑な外科手術や集中治療を必要とする病態に対応できる病院施設のキャパシティを増やすことだったといいます。

在宅医療に必要なエコシステムは規模が大きいため、内部開発だけでなくパートナーシップを組むことでバーチャル病院を実現させました。フロリダ州ベロビーチに臨床統合バーチャルケアセンター(CIViC; Clinically Integrated Virtual Care )を開設することで、24時間365日体制で在宅患者をサポート、ケアしています。投薬管理、検査サービス、抗生物質の点滴、点滴、理学療法や呼吸療法などのリハビリテーション、画像診断、食事などが組み込まれた患者のケアプランは、統合された医療技術と臨床の専門家による実践的ケアで構成されます。ケアチームには医師、看護師、正看護師および理学療法士や作業療法士など、その他の医療専門家が含まれます。

うっ血性心不全、COPD、肺炎、腎臓感染症など、これまでに500人以上の入院患者を受け入れており、60%以上は救急部から直接転院しています。バーチャル病院の患者は、在宅テクノロジーとその使いやすさに高い満足度を示し、医師とのコミュニケーションも改善され、病院での治療に対する全体的な評価が高まったという報告があります。 さらにCIViCでは、実際の病院内で患者をケアする際に生じる身体的な負担なしに、急性「病院」ベースのケアを提供することができるため、看護師の志願者が殺到しているとのことです。

参照リンクは下記になります。

Link:https://my.clevelandclinic.org/florida/departments/medicine/depts/hospital-care-at-home

Link:https://www.beckershospitalreview.com/hospital-management-administration/hospital-care-at-home-how-cleveland-clinic-reimagined-acute-hospital-care-delivery.html

Link:https://www-cms-gov.translate.goog/newsroom/fact-sheets/acute-hospital-care-home-data-release-fact-sheet?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc

3. 今後の予定


※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

***********

2024年度のPXE6期生の募集を開始しました。全5回で、PX概論からペイシェントジャーニーマップの作成、PXに欠かせないコミュニケーションなどを学ぶことができます。PXE同期、卒業生とのネットワークにより、PX実践につながる交流も図れます。

医療者だけでなく企業勤務の方も受講可能です。申し込みは下記リンクからお願いします。https://www.pxj.or.jp/pxe6/

※6期からはPX研究会編著の書籍『ペイシェント・エクスペリエンスー日本の医療を変え、質を高める最新メソッド』(三輪書店)をテキストとして使用しますので、受講生の方は下記から各自でご購入をお願いします。

三輪書店オンラインショップhttps://shop.miwapubl.com/products/detail/2713 

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4895908062?ref_=cm_sw_r_cp_ud_dp_TQ04SWYRV6624N0S4X4K 

※全国の書店でも購入できます。

編集部から


激辛カレー好きですが、胃がしくしく痛むぐらいの辛いものを久しぶりに食べました。その名もDeath Valleyです。(F)