日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.251

1.テクノロジーによるPX向上
2.15分間で患者アウトカムを改善する
3.今後の予定

※配信が遅れましたことお詫び申しげます

1.テクノロジーによるPX向上


米国のヘルスケアICT企業であるAscomのKelly Feistさんによる米フォーブス誌の記事では、テクノロジーの導入によるPX(Patient eXperience;患者経験価値)向上について考察しています。

ITを通じて医療界の方向性や技術の向上を目指す組織であるHIMSS主催の2023年カンファレンスでは、PX向上を目指したテクノロジーがたくさん展示されていました。デジタルホワイトボードからAmazonのAlexaやEcho for healthcareのような製品まで、PXを最適化するために設計された、コミュニケーションに特化したさまざまなソリューションがあります。このことは、複数のデバイスを統合して、テクノロジーに対応した病室のあるべき姿の青写真を描く方法の必要性をより強調しています。


患者は市場での経験からデジタルに精通するようになり、その期待を医療にも適用するようになりました。患者は消費者なのです。そして患者が満足しない場合、病院に影響します。このことは、HCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)スコアにも表れています。この全国的な調査は、メディケイドやメディケアの払い戻しの指標となるもので、入院中のケアの質に対する患者の認識がこの調査に基づいている部分にあります。このことから、患者はテクノロジーがHCAHPSのスコアに影響を及ぼすと報告すると予想されますが、ある研究では、その逆の結果が得られています。私たちは、テクノロジーが患者満足度を向上させる重要な要素であると考えていますが、治療過程のジャーニー全体で患者満足度に影響を与える業務改善につながる、その裏側にあるテクノロジーを患者が見ていない可能性があるため、断絶が起きているのです。

私たちは、患者ケアの効率と質の向上に直接関連するテクノロジーに投資している組織が、HCAHPSスコアを伸ばしているのを見てきました。このような施設では、看護スタッフにアラートとアラーム機能を備えたモバイル機器を装備し、役割ベースのスケジューリングと割り当てソフトウェアを使用してスタッフの配置を確保。医療用インテグレーション(MDI)を導入して複数の機器からデータ入力およびフィルタリングを行い、看護スタッフがよりプロアクティブなケアに大きな能力を発揮できるように運用面で投資しています。MDIと医療技術を活用するソリューションの適切な組み合わせを設計することで、患者が予定外のICU入室やその他の緊急介入を必要とするかどうかを監視・予測するうえで大きな違いを生み出すことができます。

しかし、多くの患者は、オンラインスケジュールやバーチャル予約のような「デジタルフロントドア」サービスなど、目に見えるテクノロジーに注目しています。遠隔モニタリングが普及するにつれて、このテクノロジーによってケア体験の満足度が高まったと考える患者が増えているようです。

病院経営者は、テクノロジーへの投資について全体的な視野を持ち、これらすべての異なる技術の合計が部分の合計よりも大きくなり、市場における競争力のある差別化要因となり得るようにする必要があります。モニター、人工呼吸器のワークフローソリューション、あるいは移動式ワークステーションなど、これらすべてが統合され、看護スタッフの働きやすさを促進する必要があります。例えば、モバイル機器やその他のテクノロジーを収納し、簡単にアクセスできるようにするモバイルワークステーションがあれば、看護師はより簡単にケアを行うことができるようになります。介護士がモニタリング、スキャン、ラボワークのためにポータブル医療機器を持参できることは、患者の全体的な体験に貢献することになります。

今後病院が患者ケアを強化するために、使用する基本的なテクノロジーと、そのテクノロジーがどのような違いをもたらすかについて話してくれることを期待しています。病院は、患者が医療の消費者として、自分のケアを助けるテクノロジーについて質問してくることを期待します。そしてますます、患者はその答えに基づいて、どこで治療を受けるかを決定するようになっていきます。

全文は下記リンクから読むことができます。

Link: https://www.forbes.com/sites/forbestechcouncil/2023/06/08/improving-the-patient-experience-through-technology/?sh=4900c12e2f95

2. 15分間で患者アウトカムを改善する


米国メディアプラットフォームであるBecker’s Healthcareが発行する「Becker’s HOSPITAL REVIEW」の記事では、15分間で患者アウトカムを改善する方法を紹介しています。それは何かというと、乳がん患者へのリフレクソロジー、レイキ(手を当てることによるエネルギー療法)、マッサージの15分間のセッションです。米国ニューヨーク市に拠点を置くノースウェル・ヘルスの取り組みを紹介します。

ノースウェル・ヘルスでこのセッションを担当するのは、47年のキャリアを持つホリスティック看護師で正看護師のJoanne Christophersさんです。このキャリアを始めて約22年、PXを向上させる方法を目の当たりにした彼女は、中国医学やその他のホリスティック・アートを正式に学ぶことを決意しました。

「統合療法は、現代医学と補完医学のいいとこ取りです」とJoanneさんは語ります。ノースウェル・ウェルネス・センターで週4日働いており毎週火曜日、がん患者を診察するために診療所に出向きます。診察室では落ち着いた音楽を流し、電気キャンドルを置いて、リラックスできる環境を作っています。患者は、その日の放射線治療を終えてから受診します。Joanneさんはまず、患者に痛みとストレスの程度を尋ねます。そして、「セルフケアは何をされていますか?」と聞きます。ヨガや瞑想、運動といった答えが返ってくる人もいれば、何もしていない人もいます。セルフケアを始めていない人には、Joanneさんが5分間の呼吸と瞑想を指導しています。

その後、患者さんが望むことをやっていきます。Joanneさんによると、ほとんどの患者が足の裏や手のひらに圧力をかけるリフレクソロジーや、肩のマッサージを希望するそうです。

Joanneさんは、「結果は私が期待した以上のものでした。”これはいい “と思ったんです。放射線治療の後に、ちょっとしたスパトリートメントを受けるようなものと思っていましたが、それ以上でした。患者からは、ストレスや痛みのレベルが改善されたと聞いています。ほとんどの方が、放射線治療を乗り切るのに役立った言います。治療が終わると、私に会いに来てくれて、リラックスできるのだと思います」と振り返ります。

Joanneさんは、このセッションは化学療法による神経障害を持つ患者さんに特に有効であると述べています。

米国ニューヨーク州にあるハンティントン病院の放射線腫瘍医で放射線医学部長であるHeather Zinkinさんは、「このセッションによって、がんの放射線治療がストレスの少ないものになるでしょう」と語っています。

「私の哲学は、常に乳房に焦点を当てるだけでなく、人全体を治療することでした 」と、Heatherさんは言います。「乳がんの患者には手術、化学療法、放射線療法を提供していますが、同様に患者にとって重要な要素は栄養、運動、ストレス軽減、よい睡眠習慣など、患者がコントロールできることで力をつけることです」

Heatherさんは、患者によりよいカウンセリングを行うために栄養学の証明書を取得しています。「ほとんどのがん専門医は、このことについての知識がありません。私たちは訓練を受けていないので、自分で情報を得なければならないのです」と説明します。多くの女性が放射線治療のために週5日クリニックにやってくるので、ポジティブな経験をすることがとても重要だとHeatherさんは言います。

ノースウェルには患者向けのウェルネスセンターがありますが、クリニックから30分ほど離れています。この無料セッションは、1年前から提供されており、 「非常に役立っています。ストレスや痛みが大幅に軽減され、気力も向上しました」とHeatherさん。

HeatherさんもJoanneさんも、他のセンターががんクリニックで同様のサービスを開始することを望んでいます。Joanneさんは、「一番大きいのは、このオフィスの全員が私の仕事を知っていて、それを宣伝してくれることです」と言います。「たまに、変わったことや聞いたことのないことを試すのをためらっている患者がいますが、最終的に私に会いに来ると、『あら、先週もできたのに!』と思うようです」

Heatherさんは、「Joanneさんが自分たちのために時間を割いてくれると、スタッフはいつもわくわくしています」と付け加えてコメントしています。

Link: https://www.beckershospitalreview.com/oncology/how-northwell-is-improving-patient-outcomes-with-special-15-minute-sessions.html

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では第5期生のPXEの募集を開始しております。

2023年7月開講の全5回の養成講座では、PXの基本的な考え方からPXサーベイの実践、患者ジャーニーマップの作成、患者の思いを引き出すコミュニケーション法などを学ぶことができます。

患者視点の医療サービス提供を実現したい方であれば、医療者に限らず、どなたでも受験可能です。医療現場や職場でPXを向上させる旗振り役として、私たちと一緒に活動しませんか?

概要および申し込みは下記リンクからお願いします。

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PX研究会では今年から新たにEX(Employee Experience;従業員経験価値)講座を開講します。

EXは医療現場で働く人が経験する、すべての体験を指します。EXを高めることで組織目的の達成のためのエンゲージメント向上、従業員のwell-being向上、患者へのよりよいPXにつながるとされています。実際に、海外の知見ではEXとPXの関連性が示されています。講座ではEXの定義、EXを高めるうえでどのような視点が重要なのか、医療期間でどのような取り組みができるか、そしてPXとの関連性について初学者向けに解説します。

申し込みは下記リンクからお願いします!

https://www.pxj.or.jp/ex/

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

編集部から


近所のカレー店が来週で閉店することに。10年ほど通っていて、店主のお母さまがいつもサービスでマサラチャイを入れてくれました。これが飲めなくなると思うと寂しさが募ります。(F)