1.アートワーク活用でPXを上げる
2.医療における礼儀と敬意
3. 今後の予定
1.アートワーク活用でPXを上げる
デザイン思考を病院に取り入れることでPX(Patient eXperience;患者経験価値)向上につながるとされており、米国メイヨークリニックではいち早く取り組んでいることが知られています。たとえばプレイルーム、屋内庭園、アートインスタレーションなど、病院内に患者をポジティブな気持ちにさせる場所をつくります。患者の不安をやわらげたり集中力を高めたりすることができればPXは高くなり、治癒を進めることができます。
一方で、診療報酬の低下や人件費、設備費、消耗品費の高騰によって病院の予算が圧迫されるなか、こうしたソリューションは「必要なもの」ではなく「あればいいもの」と見なされがちです。アートワークの活用により、地域社会とのかかわりを深め、患者を幸せにし、より良い結果をもたらす方法を紹介します。
☆アートワークで地域社会とつながる
病院において新設の資金は診断、処置、入院などの収益を生み出すスペースが優先されることが予想されます。財政的に考えればテレビ試写室やアトリウムのような高価な増改築を行うよりも、天井や床、壁、廊下、エレベーターといったスペースに注目すべきです。ただし絵画など一般的なアートで飾るのではなく、インタラクティブなアートインスタレーションや体験を利用して、快適さと地域とのつながりを提供します。
ワシントン州シアトルのオデッサ・ブラウン・チルドレンズ・クリニックは設計の時点で地域の人たちに対し、「臨床的な雰囲気の空間にはしたくない」と表明しました。また、”真っ白な壁はいらない “という考え方も強調していました。そこでデザインチームは、地元の黒人や先住民のアーティストによる壁画で空間を包むことでクリニックのレガシーを称えました。
別のプロジェクトでは、床材を活用してインパクトを与えるとともに、地域社会との結びつきを強めました。アラスカ州フェアバンクスにあるチーフ・アンドリュー・アイザック・ヘルスセンターの待合室には直径9メートルの円形カレンダーがはめ込まれています。
このカレンダーには、植樹、狩猟、釣りなどの季節の行事や、夏至などの天体の節目が紹介されています。親が子どもに自分たちの文化を教えることができるように、また、若い患者が自分の病状とは違うことを考えることができるようにデザインされています。
☆待合室や廊下に設置するディスプレイ
高品質のLEDスクリーン、モーションセンサー、人工知能などの新技術が、ポジティブな気晴らしの機会を生み出しています。たとえば、インタラクティブなアートインスタレーション、ディスプレイ、サーフェスなどです。
南カリフォルニアの大学医療センターの待合室では、子どもや10代の若者がタッチスクリーンを使ってクマ、ウサギ、シカなどの動物をカスタマイズしてつくることができます。そして、その動物たちをバーチャルな森に「放つ」ことで、その行動を観察できます。モーションセンサーが子どもの動きを感知し、小川に魚が飛び込んだり、蝶が周りに集まってきたりといったアクションを仮想の森で起こすことができます。
英国のグレート・オーモンド・ストリート小児病院では、インタラクティブなデジタル壁紙によって、手術室の外の廊下が魅力的な森の自然歩道に変身しています。壁に触れると、鹿やハリネズミ、鳥などの森の生き物がアニメーションで登場します。このように医療施設では、インタラクティブなディスプレイやデジタルメディアを使って、見過ごされている場所を自然環境を想起させる体験に変え、ストレスを軽減し、幸福感を向上させることも可能です。
☆テクノロジーを採用
テクノロジーが急速に進化するなか、新しいタイプのポジティブな気持ちを生み出すことができる可能性は無限にあります。患者は自宅のアプリを使って、大切なものを写真に撮り、病院内の刻々と変化するデジタル壁画にアップロードします。そこで自分の投稿が公開されるのを見ることができ、つながりと安らぎを感じることができます。
また、患者がアートに触れ、その跡を残して退院する方法もあります。これは病院内で孤立するのではなく、コミュニティーの感覚を築くのにも役立ちます。何度も見ていると単調になってしまう従来の壁画とは異なり、進化するアートワークは常に驚きとインスピレーションの源となり得ます。特に、リハビリテーションに取り組む患者には、動き続けるための動機付けが必要な場合があります。
また、「イースターエッグ」と呼ばれるような、時間をかけて訪問者が発見できるデジタル要素をケア環境に組み込むことで、驚きの瞬間や日々のパズルを解決することができます。このような発見的な要素は、気持ちの高揚や運動意欲の向上、回復の早さに大きく貢献します。
☆スタッフをサポートするメリット
研究によると、医療スタッフが幸福感を高めるような体験をすることで、患者も恩恵を受けることがわかっています。多くの場合、スタッフは自分のユニットを離れて屋内庭園を散歩したり、外に出て気分転換をすることは不可能です。スタッフにとってより身近なスペースにポジティブな気持ちを生み出せるものを取り入れることで、彼らもアートワークの恩恵を受けることができるのです。
テクノロジーを活用し、革新的なデザイナーやアーティストと協力することで、病院はPXのあらゆる部分にポジティブな気持ちを生み出せるものを取り入れることができます。それにより患者は最初から最後まで、癒しをもたらすケア環境に浸ることができます。
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2. 医療における礼儀と敬意
礼儀と敬意は、数年前から患者さんのフィードバックによく見られる傾向で、患者や家族が期待することの上位にあり、そのことに立ち返るべき――。米国のPX推進団体「The Beryl Institute」のブログから、UnityPoint Health Central IllinoisのPX担当マネジャーであるChristie Zachmanさんの投稿を紹介します。
患者とその家族から礼儀と敬意が期待される理由は、経歴や学歴、経験に関係なく、親切に扱われることは誰にでも測れることだからだと言えます。過去3年間で、礼儀と敬意をテーマに関する苦情の件数は約33%増加しました。他の多くの組織と同様に、私たちもベストプラクティスから遠ざかっていることを実感しています。現実には人員不足、職場での暴力の増加、燃え尽き症候群は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以前から存在していました。パンデミックというストレスが加わったことで、これらの問題はより深刻になったかもしれませんが、決して新しい問題ではありません。
連日続くストレスのせいで、チームメンバーは精神的にも肉体的にも疲弊し、人とつながる大切な機会も失っています。基本に立ち返ることは重要ですが、ベストプラクティスについて話すだけでは十分ではありません。その代わりに、AIDET(米国の接遇向上のメソッド)の一部である礼儀と敬意を伝える行動を定義することに焦点を当てる必要があります。私たちが今注目しているのは、チームメンバーにあらゆる交流を最大限に活用する方法を示すことです。
本来、医療従事者は他人の世話をすることに集中し、自分自身の健康状態を軽視することが多いものです。このことを念頭に置いて私たちは2023年、セルフケアを奨励することでwell-beingをサポートすることに焦点を移しました。私たちは、チームメンバーが他の人をケアしてくれることを期待する前に、私たちがチームメンバーをケアする必要があることを理解しなければなりません。そのため新しいつながり方を見つけ、サポートを示し、セルフケアの重要性を促進する必要がありました。昨年、私たちが行った最初のステップのひとつは、「共感」に焦点を当てたトレーニングの実施でした。これは、スタッフが自分の感情や経験を共有するためのオープンな場となりました。私たちの目標は、共感が得られた個々の経験を振り返ってもらうことで、スタッフの目的を再認識し、最終的には、他者をケアすることへの情熱を呼び起こすことでした。
看護師リーダーやPX部門と協力し、私たちの協議会は、看護における質の高いケアのためのモデルを採用しました。ダフィーの理論は、取引型から関係型に移行し、思いやりのある関係をつくるというコンセプトに基づいています。またダフィーは、他者をケアするにあたっては、まず自分自身をケアすることが必要だと説いています。
私たちはチームメンバーから得たフィードバックに耳を傾け、可視化に重点を置き、”ダフィーラウンド “と呼んでいるものを通じて、セルフケアの重要性を伝える方法を模索しています。エグゼクティブを含むリーダーたちは、定期的にラウンドし、チームメンバーの様子を確認しています。ラウンドと可視化は、ヘルスケアの “ニューノーマル “のなかで人々とつながる方法を一緒に見つけるために、これまで以上に重要です。
3. 今後の予定
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では第5期生のPXEの募集を開始しております。
2023年7月開講の全5回の養成講座では、PXの基本的な考え方からPXサーベイの実践、患者ジャーニーマップの作成、患者の思いを引き出すコミュニケーション法などを学ぶことができます。
患者視点の医療サービス提供を実現したい方であれば、医療者に限らず、どなたでも受験可能です。医療現場や職場でPXを向上させる旗振り役として、私たちと一緒に活動しませんか?
概要および申し込みは下記リンクからお願いします。
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
猫を2匹飼っていますが見た目や性格はもちろん、食事やトイレなどすべての好みが異なります。飼い猫その2はシャカシャカしたビニールが大好きで、家の至るところにビニールが敷いてあります。個性って面白いですね。(F)