日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.238

1.日本病院総合診療医学会でPXシンポ
2.PXの3つの側面
3. 今後の予定

1.日本病院総合診療医学会でPXシンポ


2月18~19日に栃木県宇都宮市で開催された第26回日本病院総合診療医学会学術総会では、PX(Patient eXperience;患者経験価値)に関連するシンポジウムが行われました。患者の立場から私、藤井が参加しました。

会場にあった大きなパネル。かっこいいですね!

 

同総会は「Diagnostic Excellence – 総合診療、これからの診断学」をテーマに、病院総合診療における診断の重要性を示すといった考えのもと、開催されました。私が参加したセッション「Patient eXperience/Patient Journeyの視点でDiagnostic Excellence(良質な診断)を考える」ではPXやPJに焦点を当て、医師が患者や多職種と協働し、どのようにDiagnostic Excellenceを実現することができるかを考え、議論しました。

 

最初に登壇した、獨協医科大学病院総合診療科の原田侑典さんは「Diagnostic Excellence×患者協働」として、Diagnostic Excellenceを目指すには▽患者中心性を高める、▽不確実性を患者と適切に共有する、▽最良のDiagnosticianはPXも向上させる、▽患者からのフィードバックが大事――と指摘。そしてDiagnostic Excellenceにおける患者の役割として、▽自身に関するエキスパート、▽診断エラーのセーフティネット、▽診断の真のコーディネーター、▽知識を利用して付加価値を生み出す創造者――を挙げました。そのうえで患者・家族の経験を活かす手法として、「Diagnostic Journey Mapping」を活用するとしました。

藤井からはPXの概論および日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動と、患者視点でのニーズへの理解を医療者と一緒に深めていくためのアプローチとして、自身の闘病とその時々の感情をPJM(Patient Journey Mapping)に落とし込んで説明しました。

それを受けるかたちで、練馬光が丘病院総合救急診療科の小坂鎮太郎さんが「PJMとEJM(Employee Journey Mapping)を用いた診断経験(Diagnostic Experience)の向上」について語りました。病院に入職したスタッフがキャリアの旅路を考えるために、自院で作成したEJMを紹介。「EJMはEX(Employee eXperience;従業員経験価値)を改善するためのツール」とし、PJMにEJMを加えることで、診断の改善につなげるマップを示しました。

「Diagnostic Journeyを豊かにするために薬剤師ができること」と題した、同院薬剤室の榎本貴一さんの発表では▽診断エラー予防に対する薬剤師のかかわり、▽薬剤師とどのように協働できるか――を考察しました。診断エラー予防として、▽処方にかかわる、特に副作用や相互作用に起因する健康問題を特定、回避する、▽医師と協力して、薬剤性かそれ以外によるものか特定する、▽健康問題に対する薬剤の選択について医師に言及する――の3つを挙げました。榎本さんは「薬剤師は処方にフォーカスし、薬剤がかかわる診断エラーやその要因に対応できます。また、服薬指導や処方の相談を通して、患者のDiagnostic Journeyにかかわることもできます」とし、臨床での意思決定へのかかわりは病院薬剤師のEXに貢献できる可能性について言及しました。

同院リハビリテーション室の木村泰さんは、理学療法士の立場からDiagnostic Excellenceについて論じました。診断プロセスにおける理学療法士の役割を「医師の医学的診断に基づいて計画されたケアの工程の⼀部」と説明。患者の動作時の症状を評価できることを強みとし、「検査と評価から⽣じた臨床的推論のプロセスの結果であり、必要に応じて他の専⾨家からの追加情報を取り⼊れる」のが、理学療法士の機能診断としました。また、患者中心のDiagnostic Excellenceを実現するためには、患者ニーズを汲み取り、不安や苦痛の除去を第⼀に考えたうえで▽臨床医の知識だけではなく患者の知識を受け⼊れる、▽患者の報告を含めた⻑期的なフォローアップと継続的な検証を⾏う、▽説明のレベルを調整する、▽患者の解釈可能性と知識の成⻑を確保する、▽患者の⾔葉と理解を臨床家のそれと融合させる――を挙げ、「それぞれに理学療法士が貢献できることは大きい」と述べました。

今回のシンポジウムでは、診断という切り口でPX、さらにEXを考察することができました。PX向上にはEXが欠かせないことを改めて思いました。ご一緒いただいたみなさまに感謝です。

シンポジウム会場の「紅蓮華」に合わせたコーディネート。全会場で演出が異なり、それを見て回るのも楽しかったです
セッションのメンバーとの記念撮影!

 

2. PXの3つの側面


PXに取り組むうえで時に忘れがちなのが患者の視点です。そのことを思い出させてくれる、The Beryl InstituteのExperience Excellence部門のTiffany Christensenさんの投稿を紹介します。

 

慢性疾患と共に生きる者として、私はPX をどのように定義し、改善するかを考えることに多くの時間を費やしています。改善のサイエンスは、定義されていないものを改善することはできないと教えてくれます。この基準では、PXをどのように定義するかを理解することは、それを改善するための戦術と同じくらい重要です。The Beryl InstituteのPXの定義である「ケアの連続性において患者の知覚に影響を与え、組織文化から影響を受けた相互作用の総和」は、世界中で最も広く適応されている定義の1つです。

この定義は、PXについて考え始めるのに最適な方法の1つかもしれませんが、私たちは常にPXの多面性を探求していかなければなりません。その好例が、私たちのコミュニティの多くの人々が公に署名し、コミットしている「HX(Human eXperience)のための宣言」です。この定義の導入から、医療を変革するためのHXの宣言まで、この10年間でPXがどのように進化してきたかを見るのはエキサイティングなことです。これは、PXがかなり多面的であることを代表するものです。

エクスペリエンスの専門家として、PXが知識、実践、概念といった分野であることを知っていますが、これは一部の側面を反映しているに過ぎません。ここで、時に忘れられている質問をしたいと思います。

ケアを受ける人々にとってのPXとは何でしょうか?

この考えは、エクスペリエンスの専門家が自分の仕事に没頭するなかで、時に見失われることがあるのを私は知っています。私自身、患者としての豊富な経験があるにもかかわらず、患者支援者として、またPXの最前線にいるときに、この重要な体験の側面を見失ってしまったことがあります。

では、ベッドの上、担架の上、診察台の上にいる人たちのPXの側面はどうなっているのでしょうか。患者として47年の経験を持つ私が、透析室の椅子からこのブログを書くにあたり、考えるべき3つの側面をここで共有します。

 

1つめの側面:症状や痛みの変化による身体的かつ強烈な個人的体験は、個人の全神経を奪うことがある

PXの身体的側面を経験する人にとって、困難なこと、あるいは不可能なことを要求されることは珍しいことではありません。例えば、腎臓が機能しなくなった後、私は2日間、極度の吐き気に襲われ、話すのも大変なほど不快で苦労しました。その2日間、スタッフや臨床医と接したなかで、「うなずいてください」「親指を立ててください」「親指を下げてください」と言ったのは、たった一人の医師だけでした。それ以外の人は、私に口頭で返事を求め、多くの場合、私が嫌がることに目に見えて腹を立てていました。

2つめの側面:その人の人生にとって意味を持つ、身体的な症状に対する感情的・心理的な反応

病気やけがなどで感情的な側面を経験すると、それがすべてを飲み込むようなものであることがあります。仕事を辞めなければならないのか、引っ越さなければならないのか、痛みや苦しみに耐えなければならないのか、といった心配は、患者にとっては呼び出しベルの待ち時間や医師とのコミュニケーションよりも重要なことなのかもしれません。心配や恐怖に支配されると患者が黙り込んだり、物覚えが悪くなったり、行動に異変が起きたりするのはこのためかもしれません。

3つめの側面:予約、処方箋の入手、計画の変更、さまざまな専門医に会うための患者としてのジャーニーなど、個人のタスクまたは必要な行動

患者であることに伴うタスクは、病状が複雑化するにつれて増えていきます。患者は時に、患者であることが “フルタイムの仕事 “のようだと言います。PXの側面を理解するということは、これらのタスクが時間がかかり、打ちのめされ、非常にイライラさせられることだと理解することです。このような患者としての「生活体験」は、ほとんどのスタッフや臨床医が目にすることはありませんが、患者が自分自身をケアする大きな部分を占めています。

 

全文は下記からご一読ください。

Link:https://www.theberylinstitute.org/blogpost/947424/375972/Three-Dimensions-of-Patient-Experience

 

 

3. 今後の予定


3月25日にPX研究会のオンライン勉強会、「第11回PX寺子屋」を開催します。病院に日本初のPX部門を開設した、やわたメディカルセンターのPXについての取り組みを紹介します。

 

3月25日(土)12:30-13:30

「PX概論」PX研究会 笹野 孝
「PXの取り組み」やわたメディカルセンター 安田 忍

参加費は会員は無料、非会員の方は1000円となります。下記リンクから申し込みください。

https://www.pxj.or.jp/events/

 

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第5期生のPXEの募集を開始しております。

2023年7月開講の全5回の養成講座では、PXの基本的な考え方からPXサーベイの実践、患者ジャーニーマップの作成、患者の思いを引き出すコミュニケーション法などを学ぶことができます。

患者視点の医療サービス提供を実現したい方であれば、医療者に限らず、どなたでも受験可能です。医療現場や職場でPXを向上させる旗振り役として、私たちと一緒に活動しませんか?

概要および申し込みは下記リンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxe5/

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


美容師さんからすごい椅子が某ショップに飾ってあるから見に行ったほうがいいと聞き、帰りがけに立ち寄りました。イタリアの建築の巨匠の作品で、1点1点異なるのは「私たちはひとりひとり違っていて、それこそが個性」というコンセプトだそうです。(F)