日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.231

1.EXへの悪影響を解決する方法
2.米国のPX、EXアワード
3. 今後の予定

1.EXへの悪影響を解決する方法


業務上の摩擦がEX(Employee eXperience;従業員経験価値)に与える悪影響をいかに解決するか――。 Press Ganey社のChief Clinical Officerとして、医師の関与を高めることで医療機関の患者ケアの改善を支援しているJessica Dudleyさんのブログ記事を紹介します。

 

ガルシア医師は、初診の患者さんとの信頼関係を築くために努力しています。彼女は、複雑な診断や治療法をわかりやすい言葉で説明し、親身になって話を聞くことができる人です。しかし、なかには彼女がコントロールできないこともあります。

診療以外の領域で生じた患者との摩擦を克服しようとすることが、あまりにも多いのです。患者は予約を取るのに保留にされたり、ロビーから診察室までの案内表示が不十分だったり、待合室にいる時間が長すぎたりといったことが何度も生じます。医師と患者が対面しても、緊張や不信感からなかなかコミュニケーションが取れません。患者と医療従事者の双方に負担がかかっています。システムやプロセスの不備により、患者はフロントエンドで過度な摩擦を経験し、それを医師が受けとめてしまうのです。

 

☆悪循環と好循環

業務上の摩擦が発生すると、医療機関の管理者、ケアチームのメンバー、医師など、誰かがその患者のために問題を解決しなければなりません。そうすると自分の仕事をきちんとこなすことができなくなり、ストレスが重なります。これは、レジリエンス(困難な状況への適応力)に影響を与え 、医療従事者のエンゲージメントを低下させます。それはPX(Patient eXperience;患者経験価値)の低下につながります。PXの低下は、臨床医のレジリエンスにさらに影響を及ぼします。このような悪循環に陥り、悪い結果が繰り返されることになりかねません。

医療に必要なのは、好循環です。患者のヘルスケア体験が次のようなものだったとしたら、どうでしょうか。

待ち時間に苦労することなく簡単に予約が取れ、担当医と素晴らしいやり取りができ、フォローアップがタイムリーかつ徹底している――。残念ながら、このような好循環は私たちのビジネスでは稀ですが、目指すべきものです。他の業界ではこのような体験ができるようになり、その結果、医療においてもより効率的で摩擦の少ないものであるべきだとされています。

患者は寛容であり、患者にポジティブな体験をしていただくために、すべてのことを正しく行う必要はありません。しかし、私たちは些細なことを正しく行うように改善しなければなりません。複雑な診断や、健康の社会的決定要因を患者の課題と結びつけて真正面から取り組むなど、「難しい」ことを正しく行うことはよくあります。しかし、例えば予約の取り方などを正しく行うことができないと、患者の完全な信頼と忠誠といった好循環に戻ることが難しくなります。

 

☆患者と医療従事者のフラストレーションの2層構造

ガルシア医師は、業務上の摩擦がもたらす“雪だるま式効果”を説明するためにつくられた架空の人物ですが、この例は、医療従事者の多くにとって身近なものに感じられることでしょう。業務上の摩擦は臨床医だけでなく、職場のすべての人に影響を与え、それが外部にまで波及します。

フラストレーションには2つの層があります。1つは、患者の医療従事者や医療機関に対する信頼感を損なうことです。もう1つは、医療従事者の燃え尽き症候群を加速させ、所属する組織への信頼を失わせる可能性があります。つまり、患者の信頼を失うような業務上の摩擦は、医療従事者がすでに経験している職場の問題をさらに悪化させるのです。

医療従事者は、患者からの摩擦に加えて、自分自身の「業務上の摩擦」を抱えています。自分たちが提供したいレベルのケアを実現するための十分なリソースがないこともあるでしょう。政府の規制、政策決定機関などの外的プレッシャーを感じるかもしれません。同僚や管理職、経営幹部との内輪もめがあるかもしれません。

また、医師は患者が改善するために何が必要かを知っているにもかかわらず、業務上の問題からそれを実現することができない場合、精神的損傷を経験することがあります。先に述べた摩擦(スケジュール、標識、待ち時間など)に加え、健康の社会的決定要因、ケアの不平等、政府の規制、保険会社の制限など、他にも多くの摩擦があります。

 

☆業務上の摩擦に立ち向かうための5つの戦略

1.小さく始めて、大きくする

質の高い医療を提供するためには、信頼できる人材と信頼できるプロセスが必要です。そのためには、人材とプロセスの両方に投資する必要があります。小さく始めるとは、最前線の声に耳を傾け、クリニックで患者を治療するように、物事を最も細かいレベルまで分解することです。そうでなければ、「私たち対彼ら」の考え方や「責任のなすり合い」に陥りやすく、せっかく実現しようとしたビジョンを達成することはできません。組織は、第一線の医療従事者を調査し、関与させ、発言できるようにしなければなりません。そこから、現場リーダーやマネジャーは、自分たちが抱えている課題を直属の上司と共有する必要性を感じなければなりません。そうすれば、自分自身と現場のために必要なリソースとサポートを得ることができます。

2.私たちは皆、同じチームであることを忘れない

個々の部門の“ジャージを着る”のではなく、組織のジャージを着るべきなのです。優れた(思いやりのある、つながりのある、専門的な)患者ケアには、関係者全員の連携とコミュニケーションが必要です。例えば、膝関節置換術を受ける患者には、プライマリ・ケア医、整形外科医、理学療法士、麻酔科医、看護師など、ケアチーム全体が患者のジャーニーを監督しています。ケアチームが患者の治療に専念するためには、業務上の摩擦や組織の縦割り構造が邪魔になることがよくあります。しかし、職種の垣根を越えて協力することは、フラストレーションを感じさせない継続的なPXを実現するために、私たち全員がやらなければならないことなのです。小規模なチームがベストを尽くすことができるよう、より多くの自律性を与えるとともに、サイロではなく、互いに協力し合えるような関係を築くことです。

3.システムとプロセスを修正する

臨床医や看護師は物事がうまくいかないとき、PXデータが自分たちの武器にされているように感じることがよくあります。最前線で働く人々は、PXが理想的でない場合、自分だけが責任を負わされていると感じるかもしれません。実際には、非効率的なワークフロー、不十分な人員配置やスケジュール、時代遅れのプロセスやポリシー、その他の要因によって妨げられている可能性があるのです。医師や看護師に思いやりや連携、気遣いを求めながら、それを妨げている業務上の摩擦を解決しないのでは、医療従事者の燃え尽き症候群をさらに悪化させることになりかねません。組織のリーダーがPXデータを使って、思いやりのあるコネクテッド・ケアをよりよくするために従業員のモチベーションを上げる場合、そもそもフラストレーションを引き起こし、効果を制限しているシステムやプロセスを修正する計画も立てなければなりません。それは、スケジュールの再調整、ポリシーの変更、またはプロセスの改善を意味するかもしれません。

4.コーチング、トレーニング、リスニング、そして学習

コーチングとトレーニングは、最高のケアを提供し、摩擦のない体験を可能にする好循環を生み出すために不可欠なものです。患者さんとのコミュニケーションであれ、思いやりの表現であれ、上手な聞き方の学習であれ、自分自身と他人が生涯学習につながる力をつけることほど、重要なことはありません。そして、学習するための最良の方法は、データに耳を傾け、データを共有し、データに基づいて行動し、ポジティブで持続可能な変化を促すことなのです。

5.データに基づいて行動する

データは、患者、組織、従業員、そしてそれらの間の重要な接点について、多くのことを明らかにすることができます。同じことが、従業員のさまざまなセグメントについても言えます。例えば、ミレニアル世代の従業員は、年配の従業員とは異なるものを求めていることがデータからわかります。また、女性医師は男性医師とはまったく異なる経験をしていることがわかっています。医療におけるマイノリティグループは、包括性に関して非常に異なる経験をしていることがわかっています。私たちは、従業員の体験のセグメントを分解し、データを活用し、異なるセグメントのニーズを解決する必要があります。組織がデータを活用することで、より効果的にニーズを明らかにし、優先順位をつけ、解決することができると期待しています。

 

全文は下記リンクからご一読ください。

Link:https://info.pressganey.com/press-ganey-blog-healthcare-experience-insights/how-operational-friction-impacts-employee-experience-and-how-to-fix-it

 

 

2. 米国のPX、EXアワード


ケアの質を評価し改善するための満足度調査を行っている米国Press Ganey社では1月4日、「The Human Experience Guardian of Excellence Award」を発表しました。

 

同賞はPX、EX、医療の質、臨床医のエンゲージメントの4つのカテゴリーで、1年間のデータに基づき、パフォーマンスが高い医療機関を表彰するものです。同社では4つのカテゴリーで3年間にわたって高いレベルの卓越性を維持している医療機関を表彰する「The HX Pinnacle of Excellence Award」、看護の質の高い医療機関を表彰する「The HX NDNQI Award for Outstanding Nursing Quality」という賞も設けています。

 

2022年度「The Human Experience Guardian of Excellence Award」の受賞医療機関は下記リンクから確認できます。

Link:https://www.pressganey.com/company/awards/2022-hx-guardian-of-excellence-award-winners/

 

 

 

3. 今後の予定


第5期生のPXEの募集を開始しております。

2023年7月開講の全5回の養成講座では、PXの基本的な考え方からPXサーベイの実践、患者ジャーニーマップの作成、患者の思いを引き出すコミュニケーション法などを学ぶことができます。

患者視点の医療サービス提供を実現したい方であれば、医療者に限らず、どなたでも受験可能です。医療現場や職場でPXを向上させる旗振り役として、私たちと一緒に活動しませんか?

概要および申し込みは下記リンクからお願いします。

Link:https://www.pxj.or.jp/pxe5/

*PXEの第1−4期生で、養成講座やPX寺子屋の運営をお手伝いしてくださるサポートメンバー(ボランティア)を大募集しています。希望される方は下記メールアドレスにご連絡ください!

info@pxj.or.jp

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


年明け早々、出張で北陸を訪れました。車窓からの雪景色が美しかったです。(F)