日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.225

1.エクスペリエンスを運用する
2.燃え尽き症候群への対応
3. 今後の予定

1.エクスペリエンスを運用する


この絵を見て、どんな動物だと思いますか。アヒルでしょうか? ウサギでしょうか?

 

米国の心理学者ジョセフ・ジャストローが1899年に発表した有名なだまし絵です。アヒルとウサギ、どちらも正しいというのが答えなのですが、この絵を説明する際にどのような方向づけを行ったのかで導かれる答えが違ってきます。「これは医療でも同じで、どちらを向いているかを常に自問自答しなければなりません」と米国でPX(Patient eXperience;患者経験価値)を推進するThe Beryl Instituteのエクスペリエンス・イノベーション部門のVPであるTiffany Christensenさんは指摘します。

 

ヘルスケアにおいてあらゆる相互作用が起こる瞬間には、2つの方向性が働いていると言います。1つは組織としてエクスペリエンス(経験)を運用すること、もう1つは健康・医療に関する個人的な経験です。

組織として経験を運用するというのは、「患者をケアする人たちや組織全体が、患者の話に耳を傾けているかどうか」「患者や家族が理解できるように話されているかどうか」「患者や家族が施設内の設備へのアクセスがいいかどうか」を考えるということです。

また、健康や医療に関する個人的な経験を重視するということは、「駐車場からの道のりが長く、とても疲れています。受診後に車まで戻れるでしょうか?」「脇腹の痛みは何だろう?昨日はなかったのに。どういうこと?伝えておく必要はある?」といった患者の声に対応することを意味します。この2つの経験は常にあるもので、どちらかを重視すればいいというものではなく、適切なものです。そしてある時は、これらの方向性が互いに補完し合い、またある時は、これらの力学が完全に調和していないように見えます。

経験を考える際に、TiffanyさんはThe Beryl Instituteが開発した経験を強化するための8つの戦略レンズ(視点)を使ったフレームワークの使用を勧めます。「経験の取り組みを検討し設計する際に、焦点を当てるべき領域を整理するのに役立つことを第一の意図として構築されています。これはもちろん、経験の運用を方向づけます」

Tiffanyさんは「どのような経験の取り組みも、ケアを受ける人の視線を確実に取り入れることで、バランスとより深い意味をもたらすことができます。ウサギやアヒルといった1つの視点にしか向かわない場合、組織と個人の相互作用に情報を提供し導くために必要な視点を見逃してしまう可能性があるのです。次に患者さんと接するとき、または次の経験/安全性/品質改善を設計するとき、”自分はどのように方向づけられているか “を自問してみてください」と話します。

The Beryl Instituteでは、グローバルで患者・家族アドバイザリーボードを設置しており、そこではフレームワークにおける「なぜ」に付随して「医療に関する個人的な経験」という項目を設けています。それによって組織と患者、どちらかの経験に偏ることなく、PXを高めることができるとしています。

 

 

全文は下記リンクから読むことができます。

Link:https://www.theberylinstitute.org/blogpost/593434/333080/An-Orientation-to-Experience

Experience Framework

Link:https://www.theberylinstitute.org/page/ExperienceFramework

 

 

 

2. 燃え尽き症候群への対応


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第8波と言われる感染拡大で、医療者はまた大変な状況にあるかと思います。COVID-19による医師の燃え尽き症候群(バーンアウト)への対応に関する米国メディアの記事を紹介します。

 

医師の燃え尽き症候群はPXを考える際のトピックの一つです。燃え尽きへの対応は、PXでのジャーニーで医師とパートナーとなりたいという患者やすべての人たちにとって重要だからです。

COVID-19によるパンデックで、医師は自身や家族の感染などを心配しつつ、長時間働いていることに気づきました。その解決法として示されるのは、多くが問題の根本にある制度やシステムの改善ではなく、ウェルネスプログラムの提供など、個人に焦点を当てたものとなっています。燃え尽き症候群は定量化が困難な場合があり、コストに直接関連しているとも限らないことが対応を難しくしています。

燃え尽きによる医師の退職は、ほかの医師の採用とトレーニングにかかる費用など、コストの測定は簡単です。一方、燃え尽きによる不満を持っている医師がほかのスタッフや患者と接することで組織に2次的なコストが発生します。スタッフの不満と離職率が上がること、そしてPXに影響するからです。PXが下がれば医療機関から患者が離れていき、その経済的な影響はとても大きくなります。

ほとんどの医療機関では医師の極度の疲労やストレスによる、燃え尽きのリスクを認識しています。一部のリーダーは問題がどこまで及んでいるかを評価せず、リスクを減らすための措置をとります。ほかの多くのリーダーは燃え尽きがどこまで深刻か、どこに集中して改善すべきかを判断し、改善の度合いを測定します。燃え尽き症候群を評価するものとして、Maslach Burnout Inventory(診断テストを行うバーンアウトの尺度)が有名ですが、米ミネソタ州のメイヨークリニックや米国医師会でも同様のものがあります。

 

燃え尽きはすぐに解決するものではなく、早期の介入と、燃え尽きに対応する包括的なプログラム、そして患者だけでなく医療者のwell-beingを大事にする文化をつくるための継続的な努力を必要としています。全文は下記リンクから読むことができます。

Link:https://www.medicaleconomics.com/view/the-true-cost-of-physician-burnout

 

 

 

3. 今後の予定


PX研究会では今週末の11月26日、第10回PX寺子屋を開催します。今回のトピックは、医療機関の大きな課題となっている働き方改革にPXを関連づけたお話しです。

 

11月26日12:30~13:30

「PX概論」  松本卓 やまと診療所医師

「PX・EXを高めるスマートホスピタル実現に向けた取り組みのご紹介」

小倉環 大成建設デジタルファシリティソリューション室

 

参加費1000円(会員は無料)でどなたでも参加できます。本日までの受け付けとなります。下記リンクから申し込みください。

Link:https://www.pxj.or.jp/events/

 

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PXの認知度向上のための年1回の一大イベント、第5回PXフォーラムを12月10日14:00~17:00に開催します。テーマは「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」。医療機関でのPX導入が進んでいる海外事情、日本でのPX導入・改善事例などを紹介します。

目玉となる企画は、フランス「French Patient Experience Institute」のCEOであるAmah Koueviさんによる特別講演「Patient experience: universal vision, specific actions(PX:普遍的なビジョンと具体的なアクション )」です。

 

参加費3000円(会員は無料)です。詳細および申し込みは下記からお願いします。

Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2022/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


生野菜はほぼ食べずに生きてきましたが、減量している時にはお腹を満たしてくれる素晴らしい食べ物だと認識を改めました!(F)