1.PXによる医療の質、コストへの影響
2.COVID-19と病院ボランティア
3. 今後の予定
1.PXによる医療の質、コストへの影響
PX(Patient eXperience;患者経験価値)は本当に医療の質を高めたり、病院運営の効率性向上、患者ロイヤリティ向上につながるのでしょうか。従来から指摘されてきたことですが、英国の週刊新聞エコノミストのインテリジェンス・ユニットで検証した結果が、2018年発行のホワイトペーパーにまとめられています。
レポートは過去5年間の最も信頼性が高く、質の高い文献を特定することに重点を置いたものです。PXに取り組めばPS(Patient Satisfaction;患者満足度)が高くなるという前提のもと、コストや再入院数などの基本的な指標に焦点を当てています。
医療機関のベンチマークには、在院日数や死亡率など標準化された指標が用いられていました。医療機関が優れているかどうかの測定基準として、PXを用いるのが包括的なアプローチとしています。また、PXは入院期間中だけでなく、その前後の流れが大きくかかわるとしており、それぞれの時点で次のような介入が有効だとしています。
<入院前>
・積極的なアウトリーチと患者の健康管理に関与させるための教育
・予約前のPXを向上させるための紹介状テンプレート
・患者をプライマリ・ケアシステムで可能な限り維持するための疾病管理パス
<入院中>
・診断とマネジメントを含む、病院内の患者中心のケア・パスの構築
・ベッドサイドマナーを改善するための臨床医のwell-being
・各医療従事者の役割を詳しく説明した 視覚的なコミュニケーションツール
<退院後>
・患者ナビゲーターの活用による医療フォローの向上、医療計画のアドヒアランス向上、有意義なソーシャルサポートの提供
・退院後の移行ケア計画および退院後の電話連絡とサポート
ポジティブなPXは、財務業績、臨床アウトカム、ケア・デリバリーに加え、スタッフのモラル向上や生産性の向上を含む全方位的なアウトカムの改善につながるとしています。たとえば、ある病院ではPXを向上する取り組みを行ったところ、スタッフの離職率が4.7%低下しました。
米国テネシー州のNorthrest Medical Centreでは、PSを高めるためにも人材戦略が大事と考え、取り組みました。第一線のスタッフが組織のニーズにより深くかかわることができるようになり、ITシステムの導入でリアルタイムでの情報収集が可能に、スタッフが前向きに働ける環境が醸成されました。それによってPXと質の向上につながり、運営コストを削減することもできました。
また、「PX向上のために何が有効かを予測することは難しい」と指摘。退役軍人健康管理局は2つの施設でさまざまな患者中心ケア・イノベーションを試験的に実施したものの、結果はまったく違うものとなりました。各施設が独自にもつ組織文化、人員配置、マネジメント戦略によって変わるとしています。
病院の制度・設備設計について検討することは、PXに対する取り組みが職場に根づき、改善が持続的に行われるという意味で役に立ちます。PXを改善する取り組みと並行して、その影響を測定し、定期的に進捗状況を確認するメカニズムを導入することが重要です。取り組む際には、経営陣とスタッフの間でその目的や意義をきちんと共有し、合意しておきます。「PX改善はすべてを解決できる万能なソリューションではないものの、介入対象を検討することで患者とスタッフ双方に利益をもたらし、財務業績を改善することのできる補完的なパッケージだと捉えることができます。他のシステムと同じく、考えるだけでなく実施に移すことが重要です」と結論づけています。
全文は下記リンクから読むことができます。
2. COVID-19と病院ボランティア
米国では病院を支えるボランティアの存在は大きなものとなっています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で2年ほど院内にボランティアが不在となりました。その変化はどういった影響を与えたのでしょうか。ジョージア州アトランタにあるShepherd Centeのボランティア・サービスおよびインターナル・エンゲージメント担当ディレクター であるAlex Seblatniggさんの投稿です。
COVID-19で病院は封鎖され、スタッフは全員マスクを着用するようになり、すべてのボランティアが家に帰されました。多くのボランティアにとって、病院での仕事は生活の中心でした。その生活の重要な部分が突然なくなってしまったのですから、特に年配のボランティアにとっては、その影響は大きく、孤立してしまうこともありました。健康状態が悪化したときや、記憶の問題が生じたときも、私たちは知っていました。家族のことも、趣味のことも、なぜ当院でのボランティアが好きなのかも、すべて知っていました。
ボランティアのことはもちろん、私たち自身のボランティア・マネジメントのキャリアも心配でした。ボランティアがいない世界で、私たちは必要とされるのだろうか。どうすれば自分の存在価値を示せるのか。ある部署は閉鎖され、ある部署は1人になってしまいました。新しい仕事を任された人もいて、愛するボランティアのことを心配すると同時に、自分たちの仕事の安定性についても心配しました。
世界が再び開けてくるにつれて、徐々にボランティアを呼び戻し始めたのですが、状況は変わりました。ボランティアにもCOVID-19の予防接種とマスクの着用が義務づけられたのです。年齢を問わず、多くのボランティアがこの条件を「自分には関係ない」と判断し、復帰を見送りました。役割が廃止されたため、以前の配置がなくなった人もいました。
ボランティアのいない2年間は、私たちのプログラムをより批判的に見る機会となり、以前は時間がなかった改善や変更を行うことができました。マスク着用やCOVID-19に躊躇しない新しいボランティアも採用しました。病院がボランティアで賑わうことで、病院の”あるべき姿 “を感じられるようになりました。他の職員も、組織で行われる重要な仕事を支えてくれるボランティアが戻ってきたことに感激しています。彼らは新しい関係を築き、なぜボランティアが私たちの日々の成功に欠かせない存在なのかを再認識しています。
医療機関におけるボランティアのあり方は変わりましたが、1つだけ真実なのは、ボランティアが私たちの病院の中心であるということです。
Link:https://www.theberylinstitute.org/blogpost/947424/479770/Volunteers-The-Heart-of-Healthcare
3. 今後の予定
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は12月10日(土)、第5回PXフォーラムをオンラインで開催します。
今回は、「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」をテーマに設定。ゲストにフランス「French Patient Experience Institute」のCEOであるAmah Koueviさんを招いての特別講演を行います。また、日本での先進事例についても発表します。当研究会が認定するPXのエキスパート、PXE(Patient eXperience Expert)の第3期生が各医療機関での取り組みを紹介します。
参加料は会員は無料、非会員は3000円です。多くの方とPXについて語り合える場にしたいと思います。詳細および申し込みは下記リンクからお願いします!
Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2022/
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PX研究会のオンライン勉強会「第10回PX寺子屋」を11月26日(土)12:30-13:30に開催します。内容は以下になります。
PX概論 やまと診療所医師 松本 卓
「PX・EXを高めるスマートホスピタル実現に向けた取組のご紹介」
大成建設デジタルファシリティソリューション室 小倉環
参加費1000円(会員は無料)でどなたでも参加できます。下記リンクから申し込みください!
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「患者・家族メンタル支援学会 第6回学術総会」が11月12日、東海大学医学部松前記念講堂(神奈川県伊勢原市)で開催されます。PXをテーマにしたシンポジウムでは、日本PX研究会のメンバー、関係者などが登壇します。登壇者およびテーマは次の通りです。
1.医療の質とペイシェント・エクスペリエンス
青木拓也(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部)
2.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動
曽我香織(日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会)
3.新型コロナ・パンデミックにおけるペイシェント・エクスペリエンス
小坂鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科)
4.ペイシェント・エクスペリエンスとコーチング
出江紳一(東北大学大学院医工学研究科リハビリテーション医工学分野)
当研究会理事で、学会長を務める東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科学教授の安藤潔さんによる教育講演「医療と対話」をはじめ、PXの学びにつながる内容となっています。
詳細は学術総会ホームページからご確認ください。
http://smspf.org/6th/index.html
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
先週末にBリーグの試合を観に行きました。後半終了時で同点、延長まで進んだ試合はもちろん、華やかなプロジェクションマッピングや音の大きさにも目を見張りました。(F)