1.PXに関する患者からのフィードバック
2.CXOの役割
3. 今後の予定
1.PXに関する患者からのフィードバック
2002年からPXサーベイを実施している英国のNHS(National Health Service;国民保健サービス)は、患者からのフィードバックを医療にどう反映させているのでしょうか。ヘルスケアのさまざまな課題についてリサーチを行っているNHSの関連組織であるNIHR(National Institute for Health Research;国立衛生研究所)の調査レポートの概要を紹介します。
患者からのフィードバックは、さまざまな方法と目的で収集されますが、PX(Patient eXperience;患者経験価値)に関するデータは目的により、収集情報の種類や分析、使用が決まります。一部の医療スタッフや政策立案者にとってPXデータは、サービスの実績を評価するのに役立ちます。そのほかの人にとっては個々の患者の経験を理解、尊重することであり、別の人にはサービスを改善するためのものということです。
一方、患者や一般の人からすれば、お互いの経験を分かち合うことが挙げられます。情報やサポート方法などを共有し、他者の健康についての経験を聞くことは、聞き手の健康によい影響を与える可能性があります。一部の患者は、フィードバックを受けることは、サービスに対する公的な説明責任だとみなしているという報告もあります。
フィードバックにおいては、患者と医療スタッフそれぞれの目的が一致しない場合があり、医療スタッフは患者からのフィードバックを苦情と捉え、無意識のうちに無視してしまいがちです。また、医療スタッフの多くは信頼できるフィードバックが必要だと強く思っていても、データの活用方法を知っているわけではありません。
NHSはフィードバックの収集に多大なエネルギーと費用をかけていても、診療の改善に必要な情報を提供するかに注意を払っていないといった指摘があります。非公式なフィードバックは、しばしば変革のために利用されますが、組織はあらゆる形態のフィードバックを受け入れる必要があります。
特に発展途上のオンライン・フィードバックは、ケアを見直す機会として、あらゆる形態のフィードバックを受け入れる必要があります。
よいフィードバックを得るために必要なこととして、レポートでは主に次のようなものが挙げられています。
・フィードバックを収集するスタッフの感度の高さ
・大量の自由記述を引き出し、活用するための管理方法(ツール)
・フィードバックに基づいてスタッフが行動や組織を変える力(権限)
・PXデータの分析スキル
・PX向上に取り組むチームと、医療の質を改善するチームとの連携
・調査結果を評価、アクションに変換するためのサポート
・ポジティブ、ネガティブ両方のフィードバックを受けとめる
・スタッフに実用的な調査結果を提供する
・安全性、臨床的有効性データと関連づけてPXデータを示す
全文は下記リンクからお読みください。
2. CXOの役割
米国では多くのヘルスケアシステムで採用されているPXの最高責任者であるCXO(Chief Patient Experience Officer)。その役割とはどういったものなのでしょうか。スタンフォード・ヘルスケアの副社長兼CXO、Alpa Vyasさんが米国のメディアに語った話を紹介します。
Alpaさんにとって、医療現場におけるPXのコンセプトは大きく変わりました。かつては経営陣の“贅沢品”と考えられていたPXは、今や臨床ケアの重要な要素であり、組織の価値を測るカギとなっているといいます。「患者が医療機関や組織で経験するジャーニー全体が重要視されるようになりました。ケアの提供方法は、パンデミックによって根本的に変わったのです」
PXは、患者中心のケアに不可欠な要素です。この考え方は、医療機関がエピソードベースのケアからバリューベースのケアに移行し、患者を周辺ではなく中心に据えることを目指すなかで、少なくとも20年前から盛り上がりを見せています。これは、単にアンケートを配布したり、患者さんにエクスペリエンスの評価を求めたりする以上の意味を持ちます。「今はコネクテッド・エクスペリエンスです。ケアチームは、(そのつながりの)価値と必要性を理解しなければなりません」
スタンフォード・ヘルスケアは、CXOの役割を強化する多くの組織の1つで、Alpaさんによると、数年前から進行中の「ペイシェント・ジャーニー」の一部です。ヘルスケアシステムは、公表されたデータやベンチマーク、合同委員会の審査、HCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)スコアに依存しており、リーダーシップは、患者(現在と将来の両方)とつながり、彼らのニーズを満たし、苦情になる前に懸念に対処する方法を知らなければなりません。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やバーチャルケアの台頭もあり、PXの分野でも多くのイノベーションが起こっています。医療機関は、オンラインポータルからセルフスケジューリングプラットフォーム、遠隔医療、遠隔患者モニタリングツールまで、PXを向上させるためのさまざまなデジタルヘルス技術を利用しています。
「私たちは、次世代のオムニチャネルコミュニケーションに移行しました。患者が医療者との接点を選べるようになれば、差別化を図ることができます。最近よく言われるように、患者が望むときに、望む場所で、望む方法で、電子メール、テキストメッセージ、電話、または郵便でつながることです。そして、どのようにつながるかだけでなく、どの程度の頻度でつながるかが重要です」
Alpaさんはスタンフォード・ヘルスケアのチームとともに、患者の視点からヘルスケアのエクスペリエンスを理解するために、人間中心設計や共感などのテーマで多くの研究を行っていると言います。患者のケアは、患者が入院したときに始まり、退院したときに終わるのではないことを理解したうえで、家族やケアスタッフを方程式に含めているのです。
また、新しい技術の利点は双方向に作用することも理解されています。患者はさまざまなチャネルで医療従事者とコミュニケーションをとることができます。医療従事者は重要なメッセージや情報、リソースへのリンクなどを患者に伝える新たな機会を得ることもでき、そのようなメッセージがどのように受け取られ、どのように行動したかを測定するためにテクノロジーを使用することができます。
「実際に何かをしてみて初めて、その価値がわかるのです」とAlpaさんは言います。例えば、電子メールやテキストメッセージのキャンペーンによってがん検診が増加したり、デジタルプラットフォームによって患者の退院時間が改善されたり、あるいは不機嫌な10代の若者への一通のメッセージによって糖尿病のケアマネジメントが改善されたりするかもしれません。
これがコネクテッド・エクスペリエンスの骨子だと彼女は言います。臨床データ、業務データ、介入データを活用することで、PXがケアチームや医師の体験と完全に絡み合うようになるのです。
医療業界が価値ベースのケアへの道を歩み続けるなか、患者とのつながりを確立し維持するためには、AlpaさんのようなCXOが不可欠となります。また、病院やヘルスケアシステムは、医療費をめぐって遠隔医療企業や医療保険制度、アマゾンのような巨大小売企業との厳しい競争に直面するため、その専門知識を頼りにしていくことになるでしょう。「PXの測定については、まだ健全な懐疑論が多くあります」と彼女は言います。「患者だけでなく、医療提供者にとっても、よりよい関係を築くためにこの測定結果を利用したいのです」
3. 今後の予定
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は12月10日(土)、第5回PXフォーラムをオンラインで開催します。
今回は、「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」をテーマに設定。ゲストにフランス「French Patient Experience Institute」のCEOであるAmah Koueviさんを招いての特別講演を行います。また、日本での先進事例についても発表します。当研究会が認定するPXのエキスパート、PXE(Patient eXperience Expert)の第3期生が各医療機関での取り組みを紹介します。
参加料は会員は無料、非会員は3000円です。多くの方とPXについて語り合える場にしたいと思います。詳細および申し込みは下記リンクからお願いします!
Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2022/
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PX研究会のオンライン勉強会「第10回PX寺子屋」を11月26日(土)12:30-13:30に開催します。内容は以下になります。
PX概論 やまと診療所医師 松本 卓
「PX・EXを高めるスマートホスピタル実現に向けた取組のご紹介」
大成建設デジタルファシリティソリューション室 小倉環
参加費1000円(会員は無料)でどなたでも参加できます。下記リンクから申し込みください!
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「患者・家族メンタル支援学会 第6回学術総会」が11月12日、東海大学医学部松前記念講堂(神奈川県伊勢原市)で開催されます。PXをテーマにしたシンポジウムでは、日本PX研究会のメンバー、関係者などが登壇します。登壇者およびテーマは次の通りです。
1.医療の質とペイシェント・エクスペリエンス
青木拓也(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部)
2.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動
曽我香織(日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会)
3.新型コロナ・パンデミックにおけるペイシェント・エクスペリエンス
小坂鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科)
4.ペイシェント・エクスペリエンスとコーチング
出江紳一(東北大学大学院医工学研究科リハビリテーション医工学分野)
当研究会理事で、学会長を務める東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科学教授の安藤潔さんによる教育講演「医療と対話」をはじめ、PXの学びにつながる内容となっています。
詳細は学術総会ホームページからご確認ください。
http://smspf.org/6th/index.html
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
大好物だけど年1,2回しか食べられないラーメン。近所でいつも並んでいるラーメン店につい入ってしまい、普段絶対に食べないつけ麺を頼んだのですが昆布水に滴る太麺と塩味のえび油スープが絶妙に絡み、うなってしまいました。何事も習慣や先入観にとらわれないエクスペリエンスが大事です。(F)