1.日本医療マネジメント学会に参加
2.患者・家族ができる医療者への支援
3. 今後の予定
1.日本医療マネジメント学会に参加
少し前になりますが、第24回日本医療マネジメント学会学術大会が7月7~8日に開催されました。日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では毎年、運営メンバーが演題発表を行っています。今年は3人が一般演題で、PX(patient eXperience;患者経験価値)に関する取り組みを紹介しました。
いわきケアフォレストの訪問看護ステーション・アクティホームの講内源太さんは「PXに基づく、訪問看護サービス評価と業務改善」をテーマに、PXの概念を用いて自施設のケアプロセスを検討、調査し、業務改善を行った結果を報告しました。
調査は外来版PXサーベイをもとに、訪問看護プロセスに落とし込みした36問の調査票を作成。回答項目から最も高い評価項目の割合に着目しました。
75 %以上だったのは「定期的な計画書等におけるサービスの説明」「プライバシーへの配慮」「サービス介入後におけるリスク等の説明」だったのに対し、「契約時の契約内容の説明」「介入前のサービス概要の説明」は35%以下でした。改善点として、症例検討を通じて服薬や福祉用具、住宅改修に関する説明を行うための知識の共有と契約時の担当者会議でのパウチの活用を挙げています。講内さんは、「訪問看護プロセスの評価は事業所の強みを把握し、業務改善の見える化につながりました。利用者だけでなく、家族を含む介護者のプロセス評価も改めて実施したい」としました。
国立病院機構九州医療センター小児外科医長の西本祐子さんは、自院でのPXサーベイの導入と改善事例について話しました。
九州医療センターでは2015年以降、入院患者を対象としたPXサーベイを実施。18年からは外来患者にも対象を広げ、年2回開催しています。結果は院内のQM活動発表会で公表。病棟ごとにレポートを作成しています。改善の優先順位が高いものについては当該部署と改善案をつくって実行。翌年のサーベイで改善結果を評価します。
改善事例として、食事の評価が低かったことから出産後の患者に出しているお祝い膳をリニューアルしたほか、新しいメニュー考案につながっています。「PXサーベイが課題が具体的にわかるので改善につなげやすく、質向上のツールとして有効。サーベイ結果は数値化して現場にフィードバックすると受け止められやすく、改善すればモチベーションがアップする」と西本さんは語りました。
稲波脊椎・関節病院で2019年からiPadを利用してPXサーベイを行っている、医療法人財団岩井医療財団IT・広報部の古川幸治さんはPXサーベイの結果と今後の取り組みについて発表しました。
昨年の日本医療マネジメント学会で発表した2020年10月までの分析結果と、2022年4月までのPXサーベイの結果を比較したところ、入院経験を10段階で聞く設問(10が最高評価)では、「9」「10」の割合が増えていました。また、評価が低かった項目について分析し、改善できる項目については具体的なアクションにつなげています。
「医師や看護師は家族や友人にあなたのケアについて必要な情報をすべて伝えたか」の設問では、2020年7月以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応策として患者以外の病棟への立ち入り禁止としたことが影響していると考えられました。特に60歳以上の患者からの評価が低かったことを受けて、高齢患者の家族には外来受付で説明などをしていくとしました。また病棟の清潔さについては、病棟看護師と結果を共有し、今後改善につなげていくとしました。
古川さんは、「PXサーベイを一定期間ではなく通年で実施していることにより、時系列変化や外部環境要因による影響を把握できる」と締めくくりました。
2. 患者・家族ができる医療者への支援
The Beryl Instituteのグローバル患者・家族諮問委員会(GPFAB)ではCOVID-19によって医療従事者が疲弊し、恐れやフラストレーションを抱えている状態を受けて、医療従事者へのサポートがこれまで以上に重要であると考えています。このほど、”Standing Up for the Workforce “(すべての働く人のために立ち上がる)と題したキャンペーンを展開しています。
医療従事者を支援したい、患者・家族のために、次の7つの基本原則を掲げています。
1.医療従事者とスタッフには、私たちが接することを求めるのと同じ敬意と共感をもって接しましょう。医療従事者とスタッフは、人間を助ける人間であることを常に忘れないでください。
2.私たちは、ヘルスケアのエコシステムと文化の一部であることを認識すること。私たちの行動や言動は、肯定的にも否定的にもwell-beingと医療の質に貢献するのです。
3.医療を受ける人は、十分な情報を得るようにしましょう。患者の権利と責任に関する文書、非礼の定義、その他の患者関連の方針と手順が提供されている場合はそれを認識し、確認する役割を果たします。
4.質問する際は明確に。私たちはコミュニケーションが非礼な行為をエスカレートさせる役割を担っていることを知っています。患者や家族もまた、効果的なコミュニケーションを維持するために重要な役割を果たします。
5.医療従事者と接するときは、ストレス、緊張、期待のレベルをチェックしましょう。愛する人が医療危機に瀕していることほどストレスのかかることはないと思っているので、軽々しくこのようなことは言えません。私たちは、医療従事者に“奇跡を起こす人”としての役割を期待してしまう傾向があります。
6.自分たちの心の健康を守るために、利用できるリソースを広く活用することも含めて、時間をかけます。医療危機は、患者や家族にとっても消耗の激しいエクスペリエンスです。大きな健康問題に伴う心理的な問題に対処することなく、身体的な問題にエネルギーを注いでしまうことがよくあります。
7.医療従事者に感謝し、サポートする方法を見つけましょう。時には、友人や家族に対して、これまで述べたような行動を促すことも必要です。
患者とその家族のちょっとした心がけで、医療従事者のストレス軽減や燃え尽き症候群などを防ぐことができるといいます。全文は下記からご一読ください。
3. 今後の予定
「患者・家族メンタル支援学会 第6回学術総会」が11月12日、東海大学医学部松前記念講堂(神奈川県伊勢原市)で開催されます。PXをテーマにしたシンポジウムでは、日本PX研究会のメンバー、関係者などが登壇します。登壇者およびテーマは次の通りです。
1.医療の質とペイシェント・エクスペリエンス
青木拓也(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部)
2.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動
曽我香織(日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会)
3.新型コロナ・パンデミックにおけるペイシェント・エクスペリエンス
小坂鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科)
4.ペイシェント・エクスペリエンスとコーチング
出江紳一(東北大学大学院医工学研究科リハビリテーション医工学分野)
当研究会理事で、学会長を務める東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科学教授の安藤潔さんによる教育講演「医療と対話」をはじめ、PXの学びにつながる内容となっています。
詳細は学術総会ホームページからご確認ください。
http://smspf.org/6th/index.html
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
毎日うだるような暑さが続いています。天然の毛皮を身につけている猫はさぞ暑いのではないかと思いますが、いつもフカフカしたところで気持ちよさそうに寝ています。(F)