1.PXリーダーに求められる5つのこと
2.HCAHPSはもう古い?
3. 今後の予定
1.PXリーダーに求められる5つのこと
医療機関でPX(Patient eXperience;患者経験価値)を推進するリーダーは何を考え、行動すべきなのでしょうか。米オハイオ州クリーブランド・クリニックの元CXO(Chief Experience Officer)で、現在はエクスペリエンス・マネジメント・プラットフォームを提供するQualtrics社のCMO(Chief Medical Officer)であるAdrienne Boissyさんは、以下の5つを挙げています。エモーショナルかつ含蓄のあるブログです。
パンデミックはさまざまな形で皆に爪痕を残しましたが、そのなかでも特に、美しい意思を持ちながらもひどく疲弊した労働力に余分なプレッシャーを与えてしまったことが挙げられます。全米アカデミーによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現以来、医療従事者の約20%がこの業界を去り、残った人のうち5人に4人は、人手不足が医療の安全性と適切な患者のケアを行う能力に悪影響を与えたと述べています。2022年も、チャレンジと変化に満ちた年になることが予想されます。
1. 勇気をもつ
私は以前、子供たちに「勇敢であることは、怖いことをすることだ」と言っていましたが、「勇敢であることは、ありのままの自分でいることだ」ということに気づきました。そしてそれは、もっともっと難しいことなのです。PXリーダーは人々の擁護者です。そして、すべての組織は、PXリーダーが沈黙したとき、心配する必要があります。しかし最近では、声を上げることが難しくなっています。多くの声があり、リソースは少なく、不愉快で、期待も大きいのです。
PXの専門家にとって、勇気とは、内省的な傾聴と思いやりによく似ています。人の話を深く、意図的に聞くだけでなく、その人が何を大切にしているかを理解します。状況や背景を理解し、それを反映させます。感情の使い方を慎重に選びます。行動する意思を表明します。そして行動します。
2. 喜びを追求する
ある時、キャリアシフトを考えていて、どんな役割や職種が合うのか自問自答していました。そして、堂々巡りになっている自分に気がつきました。私は間違った質問をしていたのです。ある日、私は座って円を描き、喜びで満たされた人生がどのようなものであるかに基づいて円グラフに分けました。それは次のようなものでした。
自分自身を大切にすること、家族とともにいること、地域社会で感謝をささげること、より良い友人であること、医療における苦しみを減らすこと、これらすべてが輪切りになっていました。そして、私は自分のジョイパイに基づいた人生を設計し始めたのです。
あなたのジョイパイの中身は何ですか? HCAHPSは入っていますか? ベンチマークやレポートはどうでしょうか? おそらくないでしょう。しかし、これらは私たちが最も注目しがちなことなのです。ブランドであれ、企業であれ、個人であれ、自分の価値観に合った生き方をすることが、よろこびを生み出します。しかし、自分の価値観に妥協しなければならないような環境、たとえば人よりも成績を優先するような環境では、精神的苦痛が生まれ、やがて燃え尽き症候群に陥ってしまうのです。喜びを見つけるか、前に進むか、どちらかです。誰もあなたのためにそうしてくれるわけではありませんから、喜びのパイを作って、それを追い求めましょう。
3. 持ち上げる。そして、さらに持ち上げる
医療に携わる私たちの仲間は、リフティングを必要としています。それは控えめな表現です。多くの人はウェルネスのために職場にとどまることを望まず、家に帰りたがります。心の回復は一筋縄ではいきません。しかし、少なくともいくつかの方法は、感謝に満ちています。患者さんがERに感謝の手紙を書くのを手伝えますし、あなたは仲間のリーダーに「がんばれ」と個人的な手紙を書くことができます。
私たちは、リフティングで五感を刺激する必要があります。
視覚的には、医療従事者がバックヤードで呼吸を整え(階段で泣かない!)、個室にコミットできるような、自然を取り入れた癒しの環境を作ることができます。聴覚の面では、ホールでの音楽、ロビーでの地元のピアニストや音楽療法が、日中の病院フロアで見られる騒音レベルに対抗するのに役立ちます。自分が食べたいと思うもので味覚を刺激します。肌触りについては、研修医時代、柔らかい枕が顔に触れることはありませんでした。患者が温度調節できる部屋。患者や家族から苦情が来たら、手書きの礼状を送る。こんなところでしょうか。私たちの責任は、患者さんに害を与えないだけでなく、喜びと安らぎを与えることなのです(患者さんは、あなたが傷つけないことをすでに期待しています)。
4. すべてを定義する
自分には責任がないことも含め、自分の仕事の説明書を作成します。CXOはPXを改善し、CAHPSスコアを管理する責任者であると思い込んでいますが、実際は誰もがCXOになる必要があるのです。看護師は確かにそうです。同時に、スタッフのチーフは医師とのコミュニケーションに責任を持ち、環境サービスは清潔さと静けさに責任を持つということを明確にすることで、全員が自分の役割を果たすことができるのです。私が使った最もクールなもののひとつが、RACIチャート(責任分担表)です。これはPXにおいて非常に重要です。私は良いアイデアをいくつか持っていましたが、(悲しいことに)多くのベストアイデアは私からは出てきませんでした。患者がどんな人なのかを問うポスターを部屋に貼って、医療従事者がそれを見てかかわれるようにしました。ポートが出た日に患者さんに記念品を渡すこと。患者さんが帰宅した後、私たちが気にかけていることを伝えるために電話をぢmsづ。これらの重要な革新は、仕事のオーナーから生まれました。
私は、長年にわたって患者さんの苦痛を調査し、従業員と患者さんの両方にとって重要な、斬新なエクスペリエンス指標を提唱してきました。実際の人間にとって重要な、全体的な評価基準です。私は、チームワーク、共感、コミュニケーション、安全性、そして(アクセス、請求、遠隔医療などの)容易さを含むPX指標を定義しました。自分なりに定義してください。そして何よりも、前進し続けることです。もし、あなたが革新する準備ができているならば、その道を走り続けましょう。でも、走り続けてください。
5. 変人であれ
これが私の変なところです。まあ、その一部ですが。人生の大半をバレエで過ごしてきたにもかかわらず、高校入学初日に新しいクールな衣装でつまずきました。高校時代、ラッパーとゴスロリを同時にこなすべく努力しましたが、それが功を奏したのは明らかです。私の家族は機能不全で、私は医学部志望のエッセイに自分の形成された経験について書きました。それを読んだのはたった1人でした。初めて亡くなった患者さんの名前を額縁に入れて、忘れないように保管していました。神経科医として、私は患者さんに何の仕事をしているのか、何を恐れているのか、と尋ねます。
どれも変ではと思うかもしれませんが、私は変だと感じます。なぜなら、医療者は人々の人生の最悪の瞬間に現れ、彼らが息を引き取るときに手を握っているにもかかわらず、あたかも自分も感情的な経験をしなかったかのように、医療を進めることを期待されることが多いからです。まるで私たちの心が痛まないかのように。まるで、私たちが影響を受けていないかのように。
そして、もし私たちが共感を増幅すべく、同僚や自分自身に思いやりを示すことで道を切り開かなければ、目に見えず、知られず、1人で抱え込んでしまい苦しみの鋭い痛みを助長してしまうのです。だから、あなたの奇妙な力を使ってください。あなたの創造力を発揮してください。このような奇妙な時代に、人々は私たち変わり者を必要としているのです。以下のことを試してみたいと思います。
子供を亡くした両親のために贈り物をデザインする
アーティストを招き入れる
孤独を感じたら、誰かに声をかけてください
患者さんにアートを作ってもらい、選んでもらいましょう
デザイン思考を学ぶクラスを受講する
病院食を経営陣にふるまう
ポーズ(人が亡くなった時に一時停止をして敬意を表す)を運用する
亡くなった患者さんの名前を読む。同僚の名前を読む
同僚が死んだら、フロアに顔を出す
会議で愛という言葉を本気で使う――少なくとも週に一度は
Link:https://www.qualtrics.com/blog/insights-for-patient-experience-2022/
2. HCAHPSはもう古い?
米国では、ほぼすべての成人入院患者を対象にHCAHPS(Hospital consumer Assessment of Healthcare Providers Systems;エイチキャップス)を実施していますが、近年ではその問題点、改善点などが指摘されています。コロンビア長老派教会医療センターのCXOであるRick Evansさんが寄稿した、米メディアプラットフォームのBecker’s Healthcareの掲載記事を紹介します。
HCAHPSのデータは、誰でも見ることができるように公開され、患者のフィードバックに基づいて病院に星の評価(ランク)が付けられます。さらに、これらの調査結果は、パフォーマンスに基づいて病院に報酬やペナルティを与える政府のValue-Based Purchasingプログラムの推進要因にもなっています。サーベイを開発したCMS(Center for Medicare and Medicaid Services)が定めた品質指標は、ほとんどの病院の目標設定と運営に浸透しています。
2006年にHCAHPSが誕生し、2008年に初めて結果が公表されたとき、画期的な出来事でした。この調査は、PXの重要性に光を当て、改善活動を新たなレベルに引き上げました。この変化は、大きな効果をもたらしました。COVID-19のパンデミックが起こるまでは、調査結果が年々上昇し、PXは国全体で改善されました。HCAHPSの出現により、多くの病院はPXを改善するための場当たり的なアプローチから、より戦略的なスタンスへと移行しました。これは、患者、家族、ケアチームなど、すべての人にとって良いことでした。
しかし、それは約15年前のことです。それ以来、調査ツールやプロセスはほとんど調整されていません。同時に、医療と社会は変化しました。患者の期待や優先順位は、特に人生の他の部分での経験から劇的に進化しています。テクノロジーは、HCAHPSが測定するケア体験の多くの要素を変化させました。ヘルスケアは、対面式とバーチャルなインタラクションの両方のエコシステムになっています。 まったく別の世界です。
2006年に状況を一変させたこの調査は、今では時代遅れになっています。紙媒体での実施しか認められていないのです。その他の調査方法、特に電子メールやテキストなどのデジタル調査方法を導入する必要があります。また、患者さんの期待に応えるために、質問内容も見直す必要があります。更新の時期はもはや過ぎており、今すぐ実施する必要があります。このままでは、ここ数年で獲得したものを失ってしまう恐れがあります。
また、紙媒体のHCAHPSの回答率が年々低下していることが懸念されます。紙媒体のアンケートは、これまで以上に迷惑メールの山に埋もれ、最終的にはゴミ箱に捨てられてしまいます。回答率の低下は、患者さんから得られるフィードバックがどんどん少なくなっていることを意味します。このことは、私たちのケアチーム、特に医師やその他の臨床医が認識しています。彼らは、PXを向上させるための素晴らしいパートナーです。彼らにとっては、データの妥当性が最も重要なのです。私たちの仕事の信頼性は危機に瀕しているのです。臨床医からせっかく得た賛同を失えば、我々の努力も危うくなることは間違いありません。
また、紙のアンケートでは、さまざまな視点からの意見を集めることができないという懸念もあります。世代間の違いや医療の公平性に関する懸念は、調査ツールや調査実施形態に反映させる必要があります。全米の患者支援団体は、これらの問題について非常に大きな声を上げています。すべての声を生かすためには、最新のツールとプロセスが必要です。
また、PXの仕事そのものに対するリスクもあります。HCAHPSによって、品質およびビジネス上の必須事項としてPXの重要性が認識されたことは、貴重な資源、特に病院の予算を活用し、改善をサポートするうえで非常に重要でした。この投資により、私たち全員が望む成果を達成するために、患者とケアチームにとって不可欠な重要な相互作用が改善されました。
また、患者エンゲージメント、多様性と包括性、ケア提供者の体験といった関連分野でも進歩が見られました。これらをはじめ、重要な問題や焦点となる領域に関する知識は蓄積されてきました。これまで述べてきたように、これらの進歩はすべて苦労して勝ち得たものです。HCAHPSのから得られるデータの信頼性は、上記のすべての基礎となるものであり、維持されなければなりません。
ここ数カ月、HCAHPSや、PXの仕事自体の重要性を疑問視するような記事を文献でいくつか目にしました。仕事の重要性と調査ツールそのものを混同してしまう危険性があります。私たちは、この違いを明確にしなければなりません。また、多くの作業の原動力となっているソースデータを更新しなければなりません。
CMSは、すでにHCAHPS調査ツールと調査方法を評価し、更新する取り組みを行っています。実際、これらの項目のテストが進行中です。私は、CMSのこのような取り組みを称賛します。しかし、このペースは加速されなければなりません。私がすでに述べた要因は、近年達成されたものを追い越す恐れがあります。私たちは、より適切な調査を複数の方法で、しかもできるだけ早く行う必要があるのです。
3. 今後の予定
PX研究会では医療機関や企業でPXを広めるエバンジェリストとして、PXEの認定を行っています。現在、2022年度の第4期生を募集中です。PXについて体系的に学べる内容となっております。詳細と申し込みはリンクからお願いします。
PXEの第1~3期生は5000円で受講可能です。改めてPXを学び直したいという方もぜひエントリーください。残席わずかなのでお早めにお願いします!
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第9回PX寺子屋を、7月23日(土)12:30-13:30に開催します。PX概論のほか、病院でのPX向上の取り組み事例を紹介します。
「PX概論」
松下記念病院 看護師 小松 良平
「小松市民病院におけるPX向上推進WG立ち上げについて」
小松市民病院 看護部長 湯野 智香子
研究会会員は無料、非会員の方は1000円です。
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
仕事の忙しさと比例して家のなかが荒れております。猫も散らかし放題です。私もJoy Pieを作りたいと思います。(F)