日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.195

1.医療安全とPXとの関連
2.救急医療と燃え尽き症候群
3. 今後の予定

1.医療安全とPXとの関連


PX(patient eXperience;患者経験価値)は患者中心の医療サービスの提供をめざしたものであり、PX向上によって平均在院日数、投薬ミスの減少といった医療の質改善につながるとされています。医療の安全性、インシデントとPXとの関連について言及している、米国テネシー州のヘルスケア関連のマルチプラットフォームメディアHealthLeadersの記事を紹介します。

 

PXはインシデント対応と質改善、患者中心のケアにおいて重要な要素です。シカゴを拠点とし、医療の質改善の活動を行う非営利団体Project Patient CareのPat Merryweather-Argesさんは「PXを定義するときに最も重要なのは患者の視点です。さまざまなレベルがありますが、PXを生み出すのは1対1の出会いであり、PXをより幅広く理解するためのサンプリングツール、もしくは調査ツールが必要かもしれません」と話します。

Patさんはインシデントが発生した際に、PXが重要な役割を果たす可能性についても指摘します。「PXは患者が被害を受けた際に非常に価値があります。なぜなら患者は診断を見逃した、何も聞いていなかった、もしくはほかの要因があったといった批判ができるからです。

またインシデントが発生した場合に、PXはケアチームやその他の医療関係者のモチベーションを高めることができると、医療に関する品質管理の資格認定を行っているNational Association of Healthcare QualityのCEO兼エグゼクティブディレクターであるStephanie Mercadoさんは指摘します。「PXを取り入れることで安全についての出来事を、人情味のあるものにすることができます。また、プロセスに焦点を当て、どうやって改善を達成できるかといったことにストレートにアプローチすることが可能です。重大な医療ミスで患者の視点を持ち込むことは感情的になってしまいますが、その感情は医師やステークホルダーマインドを医療の大義に向けて動かすことができるのです」

 

事故対応のプロセスにPXを含めることは、医師やステークホルダーが何がうまくいかなかったのか、どれほどひどいものだったかを反芻する機会となります。

そして、患者の安全に関するインシデントが発生した場合、多くの患者とその家族は対応に関与したいと考えています。「患者は医療の質改善に貢献したいと考えています。非常に大きなダメージを被った場合に、ほかの患者にもインシデントが発生しないように、と決意をもってコミットメントします。患者とその家族が医療機関とともに、状況を改善することで、ケアチームなどの医療関係者はやりがいのある状況に身を置くことができます」とStephanieさん。

ただし、「慎重かつ意図的に取り組む必要がある」とPatさんは言います。「危害を加えられた患者やその家族の心が治癒し、その経験を生々しく感じないようにするには一定期間が必要です。インシデントが発生した場合、医師は改善に向けて学ぶ際に患者や家族から教わるのが最適ですが、その過程でしばしば追体験することになり、非常に感情的になってしまうことがありますが、変化へのコミットメントがある限り、彼らは起こったことを大目に見てくれます」

「PXを品質改善に、率先して含めるべき」とStephanieさんは話します。たとえば病院が、プライマリケアの実践として、何かを改善したいと判断した場合は患者に意見を求め、患者の視点を得るためにかかわることが有効だとしています。Patさんは「その際に重要なのは、患者は単なる相談役や承認者ではないということ。彼らは変化へのコミットメントを望んでいて、そのために自分の時間と経験を費やしているのです」

 

Link:https://www.healthleadersmedia.com/clinical-care/patient-experience-key-element-safety-and-quality-improvement-initiatives

 

 

2. 救急医療と燃え尽き症候群


救急医療にかかわる医師と看護師の燃え尽き症候群への対応策は、感謝の気持ちにより幸福度を向上させること――。 米国のPX推進団体「The Beryl Institute」のゲストブログのなかから、患者とのコミュニケーションの自動化に焦点を当てたAuscuraの設立者で救急医のTom Scalettaさんの投稿記事を紹介します。

 

第一線で働く医療従事者の多くは、以前から自分の仕事に不満を持っていると報告されています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前に発表された研究では、救急看護師の80%と救急医の65%が、燃え尽き症候群の特徴的な兆候である「同情心疲労」「皮肉」「不全感」のうち、1つ以上示していたそうです。燃え尽き症候群に陥った看護師は、精神的・感情的な疲労を経験し、同僚や患者から距離を感じ、仕事に身が入らなくなってしまいます。

 

COVID-19のパンデミックの2年目は、早期退職者や需要の少ない仕事に移行する人がいたため、救急部の診療量は基準値を20%上回り、看護師の配置も20%下回るという結果に終わりました。

救急部とその待合室は、患者数の増加と処理能力の低下によりいっぱいとなり、過剰なストレスを感じる環境となりました。そのうえ看護師は暴言を吐かれたり、時には身体的危害を加えられたりするような非礼が常態化していました。要するに、緊迫した状況にある救急診療部は、非常に安全でない場所なのです。

燃え尽き症候群を振り払うことはできませんが、第一線で働く人たちは、回復力を高めることで救われることがあります。研究によると、感謝の気持ちが燃え尽き症候群を軽減することがわかっています。ある研究によると、これは特に救急室の看護師で顕著に見られると言います。感謝は、ストレス管理能力を向上させ、自信の感覚を高め、仕事の満足度を上げ、全体的な幸福感を向上させるのです。

DAISY財団は、ポジティブなフィードバックを活用し、健全な職場環境を育成する非営利団体です。患者への感謝の気持ちを伝えることで、看護師がそもそもなぜ看護の道に進んだのか、病気や怪我をした人々を助けたいという気持ちを思い出すことができることが、彼らの活動によって証明されています。

このような厳しい時代であっても、ほとんどの患者は自分が受けたケアに感謝しています。患者への感謝の気持ちを伝えることで、救急部は看護師の健康を大切にする職場風土をつくることができるのです。外来診療の翌日に患者から賛辞と肯定的なフィードバックを収集するプロセスは自動化でき、その後現場の職員と共有することができます。

また、定期的に褒めることは、燃え尽き症候群の軽減に役立つだけでなく、退職防止策としても効果的です。多くの場合、給与よりも重要なのは他者に必要とされ、評価されているという実感であり、仕事のパフォーマンスとケアの質に不可欠な役割を果たすということです。

感謝の気持ちを伝えること、そして受け取ることは、現場で働く人々に幸せや優しさを与え、そもそもなぜ医療従事者になったのかを思い出させることにつながります。

 

全文は下記リンクからご一読ください。

Link:https://www.theberylinstitute.org/blogpost/947424/456368/Gratitude–A-Glimmer-of-Sunshine-in-the-Covid-Storm

 

 

3. 今後の予定


PX研究会では医療機関や企業でPXを広めるエバンジェリストとして、PXE(Patient eXperience Expert)の認定を行っています。現在、2022年度の第4期生を募集中です。PXについて体系的に学べる内容となっており、多くの方のエントリーをお待ちしています。詳細と申し込みはリンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


会社からの帰り道に区役所を見たらブルーとイエローのライトアップ。身近なところに平和の祈りがありました。(F)