日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.171

1.グローバルヘルスケアの展望
2.南アフリカのPX
3. 今後の予定

1.グローバルヘルスケアの展望


デロイトトーマツコンサルティング発行のレポート「2019グローバル・ヘルスケアの展望-未来の形成」では患者と医療者との関係性に言及していて、PX(Patient eXperience;患者経験価値)にも触れています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミック前の分析ではありますが、ヘルスケアの今後の方向性を示した内容となっています。その概要を紹介します。

 

レポートでは、ヘルスケアが抱えるさまざまな課題解決のため、デジタル技術を活用した新しいビジネスやケア提供モデルの実現と、治療から健康 (Well-Being)、予防、早期介入の支援へと考え方をシフトさせる必要性を指摘。それに伴い、新たなビジネスモデルの出現と新サービスの創業者(market disruptor)によるイノベーションに期待を寄せています。イノベーションを起こす手段となるのが、「スマートヘルス・コミュニティ」です。具体的には次のようなものが挙げられています。

・適切な治療が適切な時期に、適切な場所で、適切な患者に実施される

・臨床医はテクノロジーを利用して、より正確に病気を診断して治療を行い、ケアを提供

・エコシステム全体にわたり、すべてのケア提供のステークホルダーが効果的かつ効率的に情報を伝達、利用

・看護師は管理業務ではなく患者ケアを行うなど、適切な者が適切な仕事をする

・患者に情報が提供され、患者が自身の治療計画に積極的に関与

・費用対効果の高い新サービス提供モデルによって、医療サービスを受けられない場所や人々に、 医療サービスが提供される

・効率が改善し、無駄が削減される

 

これによりアクセスと経済性の向上、質向上、より効率的な供給モデルによるコスト削減が可能となるとしています。また、「情報を得て力をもった消費者が恐らく、新しいヘルスケアの価値システムの中心に立つ」と予測。ステークホルダー(サービス供給事業者、政府、支払者、消費者、その他の企業・組織)には、革新的なテクノロジーと個別化されたプログラムを使用して消費者とかかわることによるPX向上を期待しています。

ケア提供モデルは、提供したサービス量に基づき請求が発生するフィー・フォー・サービス (FFS)から、価値に基づくバリュー・ベース・ケア(VBC)に移行すると指摘。ヨーロッパ全域でヘルスケアに対して、より価値に基づくアプローチを採用する必要性の認識が高まっていて、VBCの採用はまだ低いものの増加傾向にあると言います。

また、患者がヘルスケアサービスを「比較検討してから選択」するようになるにつれて、PXを高めることが病院のパフォーマンスの潜在的なドライバーとみなされるようになっていると指摘。顧客ロイヤルティを強化し、評判とブランドを築き、家族や友人への紹介を増やすことによって、病院サービスの利用を促進する可能性があるとしています。デロイトの調査によると、PXが良好だと高い病院収益性との相関があることが示されています。

 

レポートのなかでPXに関連する部分をピックアップしました。全体は下記リンクからご一読ください。

Link:https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/life-sciences-health-care/hc/jp-hc-healthcareoutlook2019-dl.pdf

 

 

2. 南アフリカのPX


アフリカ諸国において、PXへの取り組みが進んでいるのが南アフリカ共和国です。同国の保健省は患者中心のケアを強化するにはPX向上がカギを握っていると認識しています。公的なプライマリケア診療所でのPXに関する事例研究です。

 

南アフリカでは1996年に憲法が制定され、無料医療施策によってプライマリケアへのアクセスなど多くが改善されましたが、乳児の高い死亡率や医療資源不足、患者のニーズに応えられていないなどの課題が挙げられています。ケアの質向上に対する研究者や政府の関心は高まっていて、患者中心性、医療へのアクセスなどに焦点を当てたケア評価ツールは更新されて続けています。

保健省は2017年、「公衆衛生施設でのPXサーベイ実施に関する全国ガイドライン」を発表。入院と外来、精神保健施設でのPXに関する全国調査を公開しました。以前にあった慢性患者のPXを測定するために開発された評価方法を発展させたものです。サーベイは「尊厳」「自律性」「守秘義務」「迅速な対応」「ケア中のソーシャルサポートネットワークへのアクセス」「基本的なアメニティの質」「医療者の選択」「医療システムの応答性」に焦点を当てています。

PXサーベイと同時に、理想的な診療所の実現とその維持計画」というプログラムを策定しています。基準に照らし合わせてプライマリケア診療所を評価するもので、理想としてPXスコアが全体の70%以上としています。

 

研究では貧困の割合が高いリンポポ州にあるSibasa診療所における患者と看護師とのコミュニケーションと、意思決定の際の患者の関与についてPXを測定しました。医師が不在の看護師主導の診療所で、南アフリカのプライマリケアでは珍しいことではないとのことです。

サーベイは2019年に行われ、以前にSibasa診療所を受診した18歳以上を対象とし、179人から完全な回答を得ました。回答者の73%が女性で、平均年齢は36歳。同州の非識字者の割合は35~64歳で約30%であり、インタビューによる回答も含まれています。

看護師と対面による十分な時間を過ごしたと会頭した割合は83%で、87%は「看護師からの説明はわかりやすかった」と答えています。質問や不満を伝える機会が与えられたとしたのは70%で、79%がケアと治療に関する意思決定にかかわっていたと回答しましたが、識字の状況によって回答が大幅に異なることを示しています。非識字者や有給の仕事に就いている人のほうがPXが高い傾向や、性差や年齢によっても意思決定へのかかわりやPXに違いがあることなどが報告されています。

 

レポートの完全版は下記リンクからダウンロード可能です。

Link:https://www.researchgate.net/publication/343364115_Patient_experiences_in_a_public_primary_health_care_clinic_A_South_African_case_study

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」を12月4日に開催します。COVID-19の影響により、今年はオンラインのみでの開催です。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/

 

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PX研究会では2021年は勉強会を「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、すべてオンラインでの開催といたします。「第7回PX寺子屋」は11月13日(土)12:30 ~、開催です。申し込みは下記リンクからお願いします!

 

「PX概論」       原町赤十字病院  引田紅花

「摂食嚥下の学会報告」 幌西歯科(札幌市)院長 濱田浩美

https://www.pxj.or.jp/events/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


感染対策は必須ですが、最近はイベントにも足を運べるようになってきました。写真は某メゾンのアーカイブを紹介した絵です。秋は、服好きに最高の季節です。(F)