日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.165

1.病院設計とPX
2.PXと健康ギャップを定量化する
3. 今後の予定

1.病院設計とPX


米国、英国ではPX(Patient eXperience;患者経験価値)を評価するPXサーベイが行われていますが、病室などの療養環境は患者のPXに大きく影響していることがわかっています。グーグルやアマゾン本社の設計などを手がける米ワシントン州シアトルの設計事務所NBBJ社は、多くの病院建築を手がけていることでも知られています。20年にわたる知見をもとに、病室のレイアウトがPX向上につながるとしています。

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、医療者の燃え尽き症候群(バーンアウト)の危機が迫っていることから、病院は労働環境の改善策を探っています。NBBJ社では、スタッフステーションなどを中央にまとめ、翼状に広がる病室に沿ってケアを行う作業スぺ―スを配置する「オープンコア」というレイアウトを採用してきましたが、このレイアウトが医療者のwell-beingとパフォーマンス、患者のPXによい影響をもたらす1つのアプローチだとしています。2000年代初め、アイオワ州のグレートリバーメディカルセンターを皮切りに改良しながら導入してきたことで、医療者と患者、病院に対して旧来の病室のレイアウト(競技場や競馬場のように中央ブロックに作業スペースを、その周りに囲むようにして病室を配置)からオープンコアに変更することによるメリットを提供しています。

 

オープンコアのメリットとして、次の3つを挙げています。

1.well-beingをさらに高める

日照と景観は、従業員のwell-beingと満足度にもっとも関係するアメニティです。オープンコアは廊下の両側に病室を配置することで、病室の窓からの採光を確保。スタッフの作業スペースは1日を通して明るく、休憩エリアにも窓があることでよい景観の恩恵を受けられます。

2.視界がよくなることによる仕事のパフォーマンスの向上

レイアウト上、医療者は翼状に広がる病棟全体を見渡すことができます。緊急時には素早く対応し、通常の運用でもスタッフ間で簡単にコミュニケーションをとることができます。作業スペースはテクノロジー企業の社屋設計での教訓を活かし、よりオープンでスタッフ同士で協同できるようになっています。

3.PXの向上

患者の近いところでケアを行うことができ、PXを向上させます。NBBJ社の取り組みでは、オープンコアのレイアウトの病院患者は、ケアチームとの距離の近さに高い満足度を示しています。従来の病室よりも廊下を広くとっているので、より落ち着いた居心地のよい環境がつくれます。ストレスの要因となる可能性のある騒音レベルも、作業スペースを間隔を空けて廊下に配置することで軽減できます。

 

同社は、「オープンコアはすべての病院にとって適切なソリューションではないかもしれないが、病院の目指すものや立地によっては大きな成功をもたらすアプローチとなる可能性があります。燃え尽き症候群からPXまで、病院が直面する課題を考えると近い将来、より多くの病院が検討するソリューションになると予想されます」と話しています。

 

記事の詳細は下記リンクをご一読ください。

Link:http://meanstheworld.co/

NBBJ Healthcare

Link:http://www.nbbj.com/practices/healthcare/

 

 

2. PXと健康ギャップを定量化する


米国のPX推進団体「The Beryl Institute」のオウンドメディア、PXジャーナルのvol.8ではカリフォルニア州サクラメントにあるSutter Healthの、ヘルスケアにおける公平性とPXの定量化に関するケーススタディが掲載されています。その概要を紹介します。

 

COVID-19のパンデミックによって、人種・民族や社会経済的地位の低い人に対するヘルスケアの不平等に対応するための取り組みが活発になっています。人種・地位などの健康ギャップの存在と、それを埋めるために必要なメカニズムを特定するためにも、PXの測定とモニタリングは重要です。

EHR(Electronic Health Record;電子健康記録)とデジタル健康ツールは、多くの可能性を秘めており、変化につながる可能性があります。Sutter Healthでは電子プラットフォームと視覚化モダリティを活用し、健康格差のギャップを定量化しようと試みました。

PX、患者中心性へのアプローチとしては患者の人生経験、価値観、アイデンティティを理解したうえでの良好なコミュニケーションがあります。アウトカムにつながる改善を行うには、慢性疾患の自己管理、推奨される治療法とアドヒアランス、病気が生活にどう影響するかといったヘルスリテラシーなどを患者自身が理解しているかがかかわってきます。

Sutter HealthではEHRからSDOH(Social Determinants Of Health;健康の社会的決定要因)に関する情報を収集する、標準ワークフローを開発。PXサーベイの結果と患者の声がワークフローに反映されるようにしました。SDOHの定量化と分析に加えて、PXの格差についても追跡しています。一例として、多様なバックグラウンドを持った母親の出産におけるPX向上を図るため、より詳細なPXデータをとったところ、患者中心に基づくコミュニケーションとPXに関するヘルスリテラシーに関する知識を与えられた患者は、ケアチームとのコミュニケーションの重要性を理解したといいます。

EHRデータとダッシュボード、視覚化ツールはSDOHと患者と医療者間のコミュニケーションを定量化し、測定可能、実用化でき、公平性のギャップも特定できると結論づけています。全文は下記リンクから読むことができます。

 

Link:https://pxjournal.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1621&context=journal

 

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」を12月4日に開催します。COVID-19の影響により、今年はオンラインのみでの開催です。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/

 

 

***********

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


先日「ゆりかもめ」に乗りました。東京五輪の競技会場、豊洲市場などがあり、新しい“東京の顔”が見えるエリアですが、曇天の人工的な街並みはディストピア感ありました。(F)