1.「第3回PXフォーラム」オンラインで開催!
2.今後の予定
1.「第3回PXフォーラム」オンラインで開催!
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では12月5日、「第3回PXフォーラム ~PXとEXから考えるWell-being~」を開催しました。
当研究会は患者中心性の指標であるPX(Patient eXperience; 患者経験価値)を日本の医療機関での導入を進めたいと考え、また一人ひとりの患者にとって最適な医療サービスの提供を目指し、2016年に設立しました。英国NHSのPXサーベイをベースとした日本版PXサーベイの開発と分析、学会発表や勉強会開催、PXE(Patient eXperience Expert)の人材育成、そしてPXフォーラムなどを企画しています。3回目となる今回のフォーラムではこれらの取り組みの成果を報告したほか、海外のPX動向などについての講演を行いました。
☆2020年のPX研究会
代表理事の曽我香織さんが、PXの紹介と当研究会の活動について紹介しました。
米国の8割の病院がPXを尺度に、改善に取り組んでいることなどに触れ、「PS(Patient Satisfaction; 患者満足度)向上によってEX(Employee eXperience; 従業員経験価値)も高まり、職員の定着率、さらに医療の質につながる。PXの可視化、改善、構造改革といった流れ(PXM;Patient eXperience Management)から日本におけるベストプラクティスを出していきたい」と語りました。
☆with/ポストコロナでのPX
1つめのシンポジウムは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延するなかで、PXについて考えるというテーマでした。
PXE1期生であり、病院のトップマネジメントを担う2人が登壇しました。市立福知山市民病院副院長の中村紳一郎さんは「COVID-19で患者対応、風評被害、職員間の軋轢が生じたが、医療者はエッセンシャルワーカーであり、どんな状況でも仕事は継続していかなければならない。PXに取り組み、PDCAサイクルを回していくことを考えたい」と説明しました。小松市民病院院長の新多寿さんは、自院で受け入れたCOVID-19患者のうち退院した40人に行ったアンケート結果を報告。「スタッフからの傾聴、丁寧な声掛け、励ましがうれしかったという意見が多く寄せられた。医療に対して何を求めているのか、癒しや共感があって治療が成り立つというコアな部分がわかった」と話しました。また、医師や看護師だけでなく、事務職やパラメディカルへの励ましも必要だと指摘しました。
訪問歯科診療で嚥下リハビリに取り組む、ごはんがたべたい歯科クリニック院長の齋藤貴之さんは「COVID-19によって一時診療がストップし、口腔内環境が悪化する患者がいた。うがいや手洗いの徹底、フェイスシールドの装着などで診療しているが、家族とのコミュニケーションにも支障がある」といった在宅診療の現状を報告しました。東北大学大学院医工学研究科教授の出江紳一さんは東日本大震災時に、ストレスがかかっていた事務長にコーチングによる対話を行ったことで立ち直り、適格な指示を出せるようになった経験に触れ、「緊急時には対話型コミュニケーションが重要。対話スキルが使えることで、結果として患者安全文化の尺度が上がる」とCOVID-19においても対話が大事だと強調しました。
☆HCAHPS日本語版の開発・検証と分析
東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター講師の青木拓也さんの講演では、米国の病院で行われているPXサーベイであるHCAHPS(Hospital consumer Assessment of Healthcare Providers Systems; エイチキャップス)の日本語版の開発・検証と分析事例を紹介しました。
米国 Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)が中心となり1995年に開発されたCAHPSの病院版、HCAHPSは毎年米国の病院の80%で実施、300万人以上が参加しており、その背景としてサーベイ結果が診療報酬の成果払いとなっていると説明。日本語版は米ガイドラインに準じて翻訳したもので、尺度に欠かせない信頼性、妥当性が検証済み。日本ホスピタルアライアンス(NHA)との共同研究で、NHA加盟48病院でのサーベイデータをもとに計量心理的特性を検証しました。「従来のPS調査と違い、病院間や自病院における経時比較が可能。最も好ましい回答をした患者割合を算出することにより、常にPXを最良に保てるかが重要という原則に基づくもので、外部データと組み合わせることで質向上のための強力なリソースになる」と締めくくりました。
☆米国のPX動向とトレンド
招待講演は米国からCaring Accentの近本洋介さんがライブで参加し、米国におけるPXの機動力の変遷と最近のトレンド、特にEXが重視されるようになった背景について語りました。
近本さんは米ニューヨークのマウントサイナイ・ヘルスシステムで医師のコミュニケーションスキルトレーニングを行うなど、長年にわたりヘルスコミュニケーション、ヘルスプロモーション領域で活動し、医師の診療をサポート。Certified Patient Experience Professional(CPXP)というPX関連の資格を持っています。
「PXはヒューマニスティックな観点から始まり、評価や診療報酬などファイナンシャルな観点により広まったが、その一方でいい医療の提供という部分が薄まっている。アウトカムのみ追求していくなかでスタッフのWell-beingに悪影響を及ぼした。現在はEXへの主体的な取り組みがなければPXは向上しないとされている」と説明。また、「COVID-19による医療現場のひっ迫から、現在はスタッフ・エンゲージメントの必然性が問われている」とし、EXのアセスメントやアクティビティなど、具体的な実践例を示しました。
☆iPadでPXサーベイを実施
稲波脊椎・関節病院では2019年6月から、全入院患者を対象に、継続的に日本版PXサーベイを実施しています。IT・広報部副部長の古川幸治さんがiPadを使ってのサーベイシステム・運用と、分析結果について説明しました。「院内に医療の質向上推進室が立ち上がり、医療の質の定義やデータ収集・評価について検討していくなかで、評価項目の1つとしてPXを収集することになった」など、サーベイ実施の経緯を話しました。同院ではタブレット端末やパソコンでの実施方法をいくつか検討したうえで、既存のシステムとの互換性が高いものを採用したといいます。
2020年10月時点で、1972件から回答を得ていて、「あなたの入院体験はいかがでしたか?」というPSスコアは、「6以上」が90.7%でした。悪い回答を選択した割合が多い質問項目に着目し、医療の質向上推進室で今後改善に向けた取り組みを検討していくとのことです。
☆PXEの活用法
医療現場や企業などでPXを推進する人材を養成すべく、昨年からスタートしたPX研究会の認定資格PXE(Patient eXperience Expert)。2つめのシンポジウムでは、PXEの認定を受けたPXE1期生3人が受講のきっかけや現在の取り組み状況を語りました。
飯塚病院総合診療科・頴田病院の医師である赤岩喬さんは「診療に携わるなかで、理論中心ではなく改善中心のフレームワークを探していたところ、PXが腑に落ちた」と指摘。院内外でPXを伝える講演活動を行うほか、シームレス・チームアプローチの実現を5か年計画で目指すなかで、患者と家族の生活をデザインする方法としてPXを活用していきたいとしました。
「PXを学んだことで、人間力=コミュニケーション向上と組織改革にPXを活用したいと考えた」と話したのは日本原病院の言語聴覚士の平尾由美さん。「病院全体ではなく、まずは足元を固めるところから始めたい。リハビリ患者を対象にPXサーベイを実施した結果をもとに、現場スタッフで改善点や目標を定めることでボトムアップの組織づくりになれば」などと意気込みを語りました。
セントラルユニで新規事業の開発に携わる辻麻友さんは、「患者中心のサービスについて学びを深め、ユーザー中心という社内のマインドセットにつなげたかった」と受講理由を説明。PXE取得後には社内の勉強会や社外のPXを広めるイベントを企画。ヘルスケアにデザインの視点を持ち込もうという啓蒙活動から、新たにWEBサイトを立ち上げたことなどを報告しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大などにより、今年のフォーラムはオンラインでの開催となりましたが、136人に参加いただきました。参加者の内訳は、4人に3人が医療従事者、4人に1人が企業や大学などの方でした。ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました。来年は12月4日(土)の開催となります。さらに多くの方にエントリーいただけるよう、充実した内容にしていきたいと思います。
2. 今後の予定
PX研究会では2021年も引き続き、PXを学べるオンライン勉強会「PX寺子屋」を開催します。現在、2月13日、5月15日、8月21日、11月13日のいずれも13:00~14:00の開催を予定しています。内容など詳細につきましては決まり次第、当メールマガジンとホームページでお知らせします。
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第3期PXE養成講座は2021年7月からスタートします。ホームページで受講生の募集を始めました。概要と申し込みは下記リンクからお願いします。
Link:https://www.pxj.or.jp/pxe/
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
2020年もあと少し。コロナ禍が続くなか、ネガティブになりがちで個人的には停滞の1年でした。来年はポジティブに、PX研究会もさらに進化させていきます!(F)