日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.228

1.第5回PXフォーラムを開催
2.今後の予定

※配信が遅れましたこと、お詫び申し上げます

1.第5回PX フォーラムを開催


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は12月10日に第5回PXフォーラムを開催、盛会のうちに終了しました。

フォーラムは、PX(Patient eXperience;患者経験価値)の認知度向上を目的としたイベントです。今回は「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」をテーマに3つの講演、特別講演、シンポジウムをオンラインで行いました。

 

特別講演「PXとは:普遍的なビジョンと具体的な行動」では、フランスのPX推進団体「 French Patient Experience Institute」(以下、IFEP)CEOのAmah Koueviさんがフランスからライブ参加しました。

IFEPは会員600人、コミュニティ、ウェビナーなどに4000人が参加していて、PXを医療システム開発のレバレッジにすることをミッションとしているなどと説明。「フランスの医療システムは従来データに重点を置いていて、PXアンケートを通じて患者のPXを知ることに取り組んできましたが、ここ数年は観察(ナラティブ)に力を入れています」とAmahさん。患者本人に許可を得たうえで、手術を受ける患者の一連の経過をカメラで観察する取り組みなどを紹介しました。

「患者が何を見て、何を聞き、何を期待しているのかを推測します。ここで重要なのは、患者の希望と実際のエクスペリエンスとの差。医療従事者にとって提供したいものと実行しようとすると、エクスペリエンスとの差が生じます。PXのメソッドは、患者や医療従事者とが相互で協力しながらこれらの差異を少なくする必要があります」

 

また、患者2000人が参加したアンケートの内容を紹介。「患者・医療利用者としての経験を共有したことがありますか」の問いには、「よくある」と回答したうち、親族と共有したのは31%、医療関係者とは12%、インターネット・SNSはわずか4%でした。Amahさんは、「PXを共有することのメリットが明らかになっており、患者もその重要性がわかっています。一方で、PXの共有が十分できておらず優先して対応する必要があります。恐らく日本でも患者は思っていることを伝えにくいのではないでしょうか」と指摘しました。

Amahさんに対し、参加者からは多くの質問が寄せられました。「日本ではPX向上策として、待ち時間の短縮や設備の改善が取り組みやすさの面からも優先されているように思います。フランスでは患者との対話を強調されていましたが、フランスの医療従事者は患者との体験・思いの共有への優先順位が高いのでしょうか」という問いに対しては、「どちらも大切だと思います。サービスのパフォーマンスはもちろん大切ですが、患者がどう思ったのかという気持ちも同じく大切です。待ち時間、誰にどのタイミングで診てもらったといったすべての経験のPXを測ることで、提供するサービスが患者にとって見合っているかどうかが見えてくるのではないでしょうか」と説明。

さらに、「患者が満足しなかった理由にフォーカスした時に、医療従事者は待ち時間が長かったからだと思うかもしれませんが、患者からすれば話を聞いてもらえなかった、痛みをわかってもらえなかったといったことかもしれません」と患者視点でのPXの捉え方に言及しました。

そのほかグローバルの取り組みとしては、PX研究会代表理事の曽我香織さんが、米国でPXを推進してきた病院として知られるオハイオ州にあるクリーブランド・クリニックの事例を紹介。私、藤井が海外におけるPXの動向として、米国のPX推進団体であるThe Beryl Instituteによる16カ国のPXリーダーが参加する協議会での議論について話しました。

 

国内の病院でのPXの取り組みについての講演とシンポジウムもありました。

堺市立総合医療センター看護局統括次長の小澤元子さんの講演では、PXアンケートの結果を活かした改善活動が紹介されました。

同院は日本ホスピタルアライアンス(NHA)が実施する、米国のPXサーベイであるHCAHPSをベースとしたPXアンケートに2018年から参加しています。同年のPXスコアは相対的に高かったものの、看護師のコミュニケーションとケアに関する設問の評価が低かったのを受け、看護師の動線を見直し、新たな看護方式をつくりました。1人あたりの患者の受け持ち数を減らし、ゾーニングによる効率化でベッドサイドでのケアに注力できるようになった結果、「看護師はあなたの話を注意深く聴きましたか?」の設問は2018年の参加40病院中37位から、70病院中2位と大幅に改善しました。

その後も疼痛ケア、病室の騒音など、PXアンケートから毎年課題を抽出することで確実に改善につなげています。小澤さんは、「PXアンケートは課題が浮き彫りとなり、改善できる素晴らしい概念だと認識しました。取り組んだ結果が翌年に数字として出るため、スタッフにフィードバックすることでモチベーション向上になっています」と語りました。

 

シンポジウムは、PX研究会が養成するPXE(Patient eXperience Expert)の第3期生による、自院での活動発表でした。

山梨大学医学部附属病院医療の質・安全管理部特任教授の荒神裕之さんは、医療の質・安全学会の活動を通してPX普及を図る取り組みを紹介しました。学会内でPXに関する研修会を企画したほか、2023年度から自院でPXサーベイを開始するといった今後の展望について話しました。

大阪母子医療センター集中治療科の稲田雄さんは米国の子ども向けHCAHPSを翻訳し、日本語版を開発。自院でPX調査を実施し、460の有効回答を得た内容を説明。複数施設での調査を来年度も展開する予定で、「さらに日本語版の信頼性、妥当性の検証を進めていきたい」と意気込みを語りました。

やわたメディカルセンターPX推進室参与の安田忍さんは、安田さんと院長がPXEを受講したことにより、2022年4月に日本初となる「PX推進室」を設立した経緯を紹介。院内でのPXの学びを共有するミーティングの開催、PX調査の実施や改善に向けたチーム(患者サポート、PX改善)の結成といった動きについて説明し、「質的データの収集、PXを推進する強力なリーダーをつくりたい」などと述べました。

 

今年のPXフォーラムは過去最高の約170人にエントリーいただき、活発な議論を繰り広げることができました。改めてお礼申し上げます。

来年は2023年12月9日(土)の開催となります。新たなテーマを設定し、PXに取り組む多くの方々と学びを深める場にしたいと思います。詳細が決まりましたら、PX研究会ホームページや当メールマガジンでお知らせします。

 

 

2. 今後の予定


第5期生のPXEの募集を開始しております。

2023年7月開講の全5回の養成講座では、PXの基本的な考え方からPXサーベイの実践、患者ジャーニーマップの作成、患者の思いを引き出すコミュニケーション法などを学ぶことができます。

患者視点の医療サービス提供を実現したい方であれば、医療者に限らず、どなたでも受験可能です。医療現場や職場でPXを向上させる旗振り役として、私たちと一緒に活動しませんか?

概要および申し込みは下記リンクからお願いします。

Link:https://www.pxj.or.jp/pxe5/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

 

編集部から


年末が一番忙しい仕事をしており、日々疲れが溜まっています。楽しかった時の写真を見て振り返り、ひと息つくようにしています。現在開催中の岡本太郎展、芸術が爆発していました!(F)